世界の舞台で輝きを放った堂安律 逆境の中で示した才能、心に残った悔しさ

川端暁彦

堂安律の決して短くない戦いは、ラウンド16で終幕を迎えた 【写真:高須力】

 U−20ワールドカップ(W杯)に向けた2年余り――。堂安律(ガンバ大阪)の決して短くない戦いは、ラウンド16にて終幕を迎えることとなった。

「ベスト4までは行けると思っていた。こんなあっけなく終わるんだな、と。あまり負けた感じがしない。ただただ、無念。悔しさだけが残っています」(堂安)

 11日間で終わってしまった世界への挑戦。「個人的には『できる』と思いました」と振り返るように、手応えもあった。それだけに、「短さ」のほうが強く心に残ったのかもしれない。

人々の記憶に刻んだ3つのゴール

今大会で3つのゴールを挙げた堂安。その個性を世界の人々の記憶へ刻んだ 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 何より3つのゴールが堂安律という個性を、世界の人々の記憶へ刻んだ大会だった。

 まずは南アフリカとの初戦(2−1)で流し込んだ決勝点。右MFの定位置からタイミング良く中に入って、遠藤渓太(横浜F・マリノス)からの縦パスを受けると、ワンタッチでオープンスペースへはたく。

「タケ(久保建英/FC東京U−18)なら、いると思った」という感覚的なプレーはまさに才能のなせる業だが、そこからの動き出し、「ゴール前の怖いところへ入っていく」プレーは、プロ入りした昨季から意識して取り組んできたこと。久保の折り返しを“おいしく”いただいたように見えるかもしれないが、パス&ゴーの原則を守りながら「点を取るポジションに入る」というプレーは、“たまたま”ではない。

 イタリアとのグループステージ第3戦(2−2)で見せた1点目のゴールは、先の得点が決して偶然の産物ではないことを証明するものだった。右サイドでボールを受け、離してからの動き出し。「内山さん(篤/U−20代表監督)にもずっと言われてきたことだし、健太さん(G大阪の長谷川監督)からも強く言われてきたことでした」。逆サイドの遠藤にボールが入ったときに、「裏への動き出しはガンバでもずっと意識してきた」と猛然と飛び出し、斜めのクロスボールへ懸命に足を伸ばしながら合わせてゴールネットを揺らしてみせた。「あれこそガンバで求められているプレー」と胸を張った一発だった。

G大阪で求められた勝利へ直結する「仕事」

G大阪の長谷川監督からは「点を取れ。ゴールやアシストという数字で結果を出せ」と要求された 【Getty Images】

 元々堂安は「ボールを持ってナンボ」の選手であり、本人もその意識が強かった。力強さと繊細さを併せ持ったドリブルで相手DFをはがし、左足のキックという武器を生かして華麗にゴールを狙い、アシストもする。そういうプレースタイルにこそ、本人のプライドもあった。ただ、高校3年生を前にプロ契約をし、いち早くトップチームでプレーするようになると、少し違ったスタイルを求められるようになる。

「点を取れ。ゴールやアシストという数字で結果を出せ」

 長谷川監督からの要求はシンプルだった。綺麗なゴールや美しい崩しなど、「ファンタスティックなプレー」を求めているわけではない。プロとしてチームの勝利へ直結する「仕事」を求められた。昨季、J3リーグのU−23チームでのプレーを余儀なくされる中で話を聞いたときは、“メラメラ”といった効果音を付けたくなる口調で「そういうことなら、絶対に結果を出して見返してやりますよ」と語っていたのは何とも印象的だった。

 試合に出て結果を出すために何が必要なのか――。そう考える中で、堂安は「少しプレーを変えた」と振り返る。「技術が足りないとは思わなかった。でも、ガンバで試合に出ている選手たちを見ていると、全員が走っている」として、「運動量を増やす」というベースの意識を持ちながら、「背後へのアクションが少なかった」自分のプレーを見直した。

U−19選手権は自己改革の必要性を痛感する大会に

U−19選手権では大会MVPに選ばれたものの、納得のいく出来ではなかった 【写真は共同】

 ボールを受けて(場合によっては運んで)、離して、動き出す。サッカーの基本と言えば基本なのだが、才能のある選手は国内のユース年代において「ボールを持てば何とでもなる」という感覚を持ってプレーすることが多く、その基本の大切さに対する気付きを得られないことが少なくない。周りを使わずとも、受けて運んでシュートを打てる。そういう感覚を積み上げているからだ。

 ただ、プロのステージではそうもいかない。DFのレベルが上がるのはもちろん、プレーを研究されて対策も立てられる。「結果」を残すためには、ボールを持ってばかりではどうにもうまくいかないのだ。

 国際大会でも同様だった。昨年10月のAFC・U−19選手権では、ボールロストが目立つ内容に終始。持ち前の負けん気の強さが悪いほうに作用しており、「『自分が自分が』と思い過ぎていた」と、ムキになってドリブルでの仕掛けを繰り返してはつぶされる悪循環にハマり込んだ。内山監督からは大会中に呼び出されて、その点を厳しく指摘されてもいる。最終的に大会MVPに選ばれたが、「なんで俺?」と思わず言ってしまったほど、自身のプレーへの納得感は皆無。世界大会に向けて、あらためて自己改革の必要性を痛感する場となった。

 今年に入ってからの堂安の変化は目覚ましいものがあった。

 昨年から取り組んでいた筋力を増しながら体脂肪を落としていくフィジカル面での改革が功を奏したこともあるのだろう。動きの絶対量が増えたことに加えて、プレーがシンプルになった。そしてG大阪では「怖いところに入っていって、ワンタッチで簡単に点を取る」プレーに新たな喜びを見いだした。新たな自分に対して確かな自信を得る中で迎えたのが、U−20W杯だった。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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