日本が「大人のサッカー」で決勝T進出 逆境でタフさを見せ、リアリズムに徹する

川端暁彦

遠藤と堂安の新しい武器で追い上げ

イタリアゴールへ徐々に迫っていく流れの中、輝いたのが堂安(左)だった 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 2点を奪ったイタリアは、グループステージ以後のことも考えて消耗を避けたい狙いもあったのだろう。全体に運動量も控えめで、前から奪いにいく姿勢は乏しく、当然ながら攻撃に人数もかけてこない。自然と「ボランチはほぼフリーでボールを持てる」(市丸瑞希)状況の中で、日本は敵陣深くへ押し込み続ける流れとなる。日本は中山雄太と冨安健洋のセンターバックコンビが盛んにボールを持ち出しながらリズムを作り、中盤では市丸が変化を加えて、イタリアゴールへ徐々に迫っていった。

 その流れの中で輝いたのが、堂安だった。

 チャンスに絡む動きを見せ続けると、まずは22分。右サイドからボールを持ち出すと、ボールを離してからディフェンスラインの背後を目指して動き出す。この「ガンバ(大阪)で言われてきた動き」を、遠藤が見逃さなかった。彼もまた「横浜F・マリノスで『ファー(遠いサイド)が見えていない』というのは言われてきた」という課題の克服に取り組んでおり、この場面では「律が視野に入ってきた」と、完全にその動き出しを捉えていた。右足から斜めに蹴り込まれたボールは、走り込んで堂安が懸命に伸ばした足にピタリと合って、追撃のゴールが生まれた。2人の攻撃的MFがJリーグの名門クラブで送った競争の日々で身に付けた新しい武器が結実した結果だった。

仕掛けたい気持ちを抑え、勝ち抜けを優先

後半5分には、堂安の今後語り継がれることになりそうな見事なゴールが生まれた 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 そして後半5分には語り継がれることになりそうな見事なゴールが生まれる。ペナルティーエリアの手前で市丸の「前を向いて仕掛けろというメッセージ」のこもったパスを受けた堂安が猛然とドリブルを開始。イタリアDF4枚に対応されるプレッシャーをモノともせずに前へと運ぶと、最後のタッチは相手DFに絶妙の角度で当たる幸運も味方に付けて、ゴールネットを揺らしてみせた。

 2点のビハインドを跳ね返しての2−2というスコアは、総得点で日本がB組3位のドイツを上回ったことを意味していた(ドイツの3に対し、日本は4)。0−0のドローでは敗退の可能性が残るのだが、2−2ならば、その可能性はゼロ。明確に「引き分けで突破」という算段が立つ状況である。もちろん、できれば勝ち越して安心しておきたいのだが、時間の経過とともに互いにリスクを避ける空気感が強まっていく。

 苦笑いを浮かべながら「僕もあんなん初めてだったので『どうしようかなあ』という……」と振り返ったのは市丸である。日本がボールをゆったりと回しながら時計の針を進めるのに対し、イタリアはそれを妨害する意思を感じさせない。血気盛んな遠藤などは「本当はドリブルで仕掛けたかった」という気持ちを抱えつつも、自分の気持ちにフタをし、チームの勝ち抜けという最大の目標を優先するプレー選択を続けた。「感情のままにプレーするな。チームのためにプレーしろ」というのは指揮官が常に言い続けてきたことで、選手たちはそれを最後まで貫き、試合終了のホイッスルを迎えることとなった。

別格の緊張感、本当の戦いはこれから

ここからは内山監督が「選手たちに何としても経験させてあげたい」と語っていた、負ければ終わりの戦いが幕を開ける 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 試合後、内山監督は「選手たちをほめてやってください」と言って、相好を崩した。絶望的なビハインドを跳ね返すタフネスを見せた上で、欲を抑えて「大人のサッカー」に徹した選手たちの成長ぶりは、指揮官にとっても特別な感慨を想起させるものだったのだろう。

 そしてここから先が本当の戦いである。内山監督が「選手たちに何としても経験させてあげたい」と語っていた、負ければ終わりのノックアウトステージ。これまでが真剣勝負でなかったわけではないが、ここから先の緊張感は別格である。リアリズムに徹して勝ち抜けたのも、すべてこのステージでの戦いを1つでも多く体感していくためである。初戦の相手はベネズエラと決まった。爆発的な攻撃力を誇る進境著しい南米の難敵を相手に、東京五輪世代の日本代表は次なるステージへと踏み出す。

2/2ページ

著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント