日本が「大人のサッカー」で決勝T進出 逆境でタフさを見せ、リアリズムに徹する

川端暁彦

イタリア戦の目標は「最低でも勝ち点1」

決勝T進出を決めた日本。イタリア戦は決して、「2−2」という数字で語れるような単純な試合ではなかった 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

「非常にタフなゲームと言うか、タフになってしまったと言うべきか」

 試合後の記者会見、内山篤監督が開口一番に語ったコメントは、苦しかった試合内容をよく表すものだった。5月27日、韓国・天安市で行われたU−20ワールドカップ(W杯)のグループステージ第3戦の結果は、伝統国イタリアを向こうに回して2−2のドローという結末になった。この結果、日本は3位通過でのノックアウトステージ(決勝トーナメント)への進出を決めたわけだが、「2−2」という数字で語れるような単純な試合では決してなかった。

 内山監督が昨年から特に強調するようになったことがある。「気持ち良くプレーするのがサッカーじゃない。試合の状況に応じてやるべきことも変わってくるのがサッカーだ」という話である。攻守で主導権を握るスタイルを志向しながらも、「サッカーは相手があるもの」という考え方を選手たちに対して繰り返し説いてきた。日本で主流の、選手たちの多くが育成年代でたたき込まれている「自分たちのサッカーを貫く」というマインドとは、少し違う方向性だ。指揮官がイタリアとの第3戦を前に説いたのも、あらためてそういう話だったそうである。

 そもそも、このイタリア戦を前に日本の置かれた状況は少々特殊だった。2試合を終えての勝ち点は日本とイタリアが共に「3」。得失点差でイタリアが2位、日本が3位という状況だが、他グループの状況を思えば、勝ち点を「4」に伸ばす、つまり引き分けという結果に終われば双方そろってのグループステージ突破が決定的というシチュエーション。イタリア側にしてみると、引き分けなら同じ2位通過となる。無理に勝ちを狙うことに必然はなく、守備的なスタンスで試合を進めることは容易に想像できるものだった。日本の選手たちも試合前は口々に「イタリアは引き分け狙いでくる」と語っており、その上で日本は「最低でも勝ち点1」(内山監督)という目標を明確に打ち出して試合に臨んだ。

2失点に焦りも、「開き直れた」

日本は最も警戒していた2人のホットラインから先制点を献上してしまう 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 そうした見立ては正しかったが、少々甘さを生んだ面もあったのかもしれない。イタリアに「引き分けOK」の発想があったのは確かだが、先制パンチを入れられるなら「よりOK」である。別に最初から攻めないというわけではない。むしろ守備ベースだからこそ、「まず殴る」のである。そんなイタリアに対して、開始3分の日本守備陣はルーズだった。

 縦パスに対してディフェンスラインが乱れており、オフサイドが消滅。斜めに走ってスペースを突いたセンターFWのアンドレア・ファビッリの左クロスを、同じく斜めに走ってDFのマークを振り切った右FWのリッカルド・オルソリーニがダイレクトボレー。日本は最も警戒していた2人のホットラインから、いきなりの先制点を献上してしまう。さらに続く8分にもFKから失点し、いきなり2点のビハインドを負うことになってしまった。

「焦りました。マジで焦りました」というMF遠藤渓太の率直なコメントは、サポーターを含めた全員が共感できるものだろう。10分も立たないうちに、いきなり日本は断崖絶壁に追い詰められてしまった。堅守の伝統国を相手にこの差が厳しいのは明らかだったので無理もない。

 引き分けを意識して同点のまま試合を運ぶというミッションより、追い掛けるほうがやることは明確化しやすい。若い選手たちにしてみると、2失点で「開き直れた」(MF堂安律)という面があったのも確かだった。加えて「単に『勝ちたい』というだけで試合に入って2失点してしまったら、ガクっときていたと思う」と指揮官が言うように、必要なのは3ゴールではなく、2ゴールだという点は共有できていた。その意識は少なからず、選手たちを楽にすることとなる。とはいえ、0−2で試合が始まったようなものだから、決して楽なゲームではない。その点は冒頭の内山監督のコメントにあるとおりである。

1/2ページ

著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント