少年サッカーの本音と建て前について考える スペイン暮らし、日本人指導者の独り言(19)
「子供たちが楽しめればいい」。でも本音は「勝て」
Aチームを率いる校長は連盟チームの監督歴が長く、勝つすべを知っている。時にそれが過剰になって私と衝突するのだが。本音と建前をうまく使い分ける点を学びたい 【木村浩嗣】
しかし、プレー機会を全員に与えることを優先した(もっとも、スクールの経営面から考えれば、2チーム制は子供の数を増やすために都合が良い、という本音もあるのだが)。「成績は気にしないから」と言われて連盟のチームからスクールへ移った私だが、その言葉が建前であることが分かるほどには成長した。
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「子供たちが楽しめればいい」という耳に響きが良いフレーズもスクールの現場ではよく使われるが、これを真に受けてはいけない。勝敗とは関係なく無心にプレーする子供と牧歌的なイメージを膨らませていけない。本音は「勝て」である。スペインの子供は小学校高学年以上になると、勝てないと楽しめないのだから。
「ダブルスタンダード」を使い分けるスペイン人
こんなこともあった。
セビージャの春祭り「フェリア」。フラメンコ風の衣装で人々が踊りまくる1週間だが、カレンダー上の祭日は1日もない。だから、大人はかなりいい加減に仕事をしながら、子供は学校を自主休講してお祭りに参加するのである。当然、練習もある。「学校がある限りサッカースクールもある」という方針だからだ。
いつもの通り練習の準備をしていたら、校長から電話が来た。
「今日は練習をするのか?」。何を当たり前のことを聞いているのかと「学校が休みじゃないんだからやるでしょ」と答えたら、「子供は来るのか?」「来ますよ」「何人?」「さあ5、6人じゃないですか」「それでやる価値はあるのか?」「1人でも来ればやりますよ。それがスクールの方針じゃないですか」「いや、実は今日はクラブが閉まっているんだ」「えー、そう言ってくれていれば練習を中止にしていたのに!」「俺たちが中止にできるわけないだろ! うまーく話を誘導して、親たちの判断で中止に持って行けないか?」「そんな話術はありません。校長が言ってくださいよ」。結局、スペイン人の阿吽(あうん)の呼吸が分からぬ私が指揮するチームは、フェリア中に練習をしたクラブ唯一のチームとなった。校長は渋々、鍵を開けにきた。
21日にリーガ・エスパニョーラが終了すると同時に連盟の少年サッカーリーグも終了し、チームによっては練習時間を減らすバケーションモードに入った。しかし、前にも言ったようにスクールは「学校がある限りサッカースクールもある」という方針だから、終業式の日6月24日まで練習はあるし、まだまだコンペティションが続くカテゴリーもある。現在のセビージャの気温は31度。今日も快晴だ。さて、練習に出掛けるか!