【ボクシング】怖さが凝縮されていた八重樫東の敗戦 再び「這い上がる姿」を見せることは?

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交通事故のような被弾に不完全燃焼

“交通事故”のような左に、松本トレーナーも不完全燃焼の悔しさをにじませた 【赤坂直人/スポーツナビ】

 問題は2度目のダウン以降。左ボディから前に出てきたメリンドが左アッパー、さらに間髪入れずに2発目のアッパーを繰り出す。これがガードをこじあけてあごにヒットした。完全に効いたと思った松本トレーナーは「このラウンドは捨てて、ガードを固めてカウンターだけと思って、致命傷を食わないようにしてほしかった」と、リングサイドから「カウンター、カウンター」の指示を送った。

 ただ、八重樫の好戦的なスタイルが裏目に出てしまう。例えば井岡戦では6R以降、両目がふさがり、上半身から上が見えない状態でも果敢に打ち合った。今回もアウトボクシングに徹してしのぐという選択肢はなく、相手の土俵に乗っかってしまった。メリンドもメリンドでKOに欲を出さずに焦ってパンチを振り回すことがなかった。「あわててパンチを振り回してくれればクリンチで時間をしのぐこともできた。相手は下から上にというパンチの組み立てが良かった」(松本トレーナー)と、徹底した左ジャブ、左ボディからのコンビネーションに、最後はガードする間もなくワンツーのえじきになった。

 コンディションは悪くなかった。試合の出だしも悪くなかった。それでも交通事故のような予想外の左フックに効かされてしまった。松本トレーナーは「いい感じかなと思った矢先にスコーンとやられて。これがボクシングの面白さであり、怖さであり。何ともやりきれない……煮え切らない……何て言ったら分からない……終盤勝負をさせてあげたかったですけど、これがボクシングですよね」と不完全燃焼に悔しさをにじませた。

松本トレーナー「まずは休んでほしい」

34歳でベテランの域にいる八重樫。「まずは休んでほしい」とトレーナーは語るが、再び這い上がってくることはあるか 【写真は共同】

 今後については「まずは休んでほしい」と松本トレーナー。進退については、自分からどうしろ、こうしろと言うことはないときっぱり。ことし2月で34歳とベテランの域。過去のダメージの蓄積も心配される。ただ、この結果では燃え尽きられていないのも確か。試合後は「明日練習に行きます」と冗談が出るほど。翌朝もLINEで連絡を取ったところ「体は全然元気です」との返答があったとのこと。

「八重樫のボクシングはもう“終活”に入ってきているとは思うので、それを八重樫がどう描いていくのか。いつもの打ちつ打たれつの12ラウンドと比べると体の受けるダメージは雲泥の差がある。男として終わりの美学があの結末でいいのか。自分の立場を度外視すると、3階級制覇もしたし潮時でもいいかなとも思うけど、メリンドと再戦したいとなったら、その気持ちも分かりますし、やるとなったら全力でサポートします。ただ、今はゆっくり休みながら自問自答して、家族や会長と相談して決めてほしい」

 激闘王と称されたきた戦い方が今回は仇となった。顔もいつもと違ってきれいなまま。試合後は笑顔も見せていた八重樫だが、時間が経つにつれてどういう感情が浮かんでくるのか。

「僕は勝ったり負けたりのキャリアなので、やっぱり見ているファンの方々には、立ち上がる姿とか、もう1回這い上がる試合を見ていただければいいかなと思っています」

 試合2日前の調印式で語っていた八重樫の言葉。数々の山を乗り越えてきた八重樫にまた大きな山が立ちふさがった。激闘王はどのような結論を出すのだろうか。

(取材・文:竹内英之/スポーツナビ)

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