錦織圭の拠点「IMGアカデミー」とは? 多くのトップアスリートが輩出される理由

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錦織圭ら数多くのトップアスリートを輩出する「IMGアカデミー」とはどんな学校なのか 【坂本清】

 IMGアカデミー――。
 テニスに詳しい人なら聞いたことがあるかもしれない。米国フロリダ州の小さな街・ブラデントンにある全寮制の寄宿学校である。錦織圭が13歳からテニス留学した場所であり、卒業後も現在に至るまでここで練習を続けている。同校はテニスのトッププレーヤーであるマリア・シャラポワやアンドレ・アガシをはじめ、米バスケットボールリーグNBAシカゴ・ブルズのエースであるジミー・バトラーや、アメリカンフットボールのスタープレーヤー、キャム・ニュートンら、数々の一流アスリートを輩出。毎年卒業生の95パーセント以上を米国の大学に送り込む文武両道の進学校である。

 これほど多くのトップアスリートを送り出すアカデミーとは、果たしてどんな学校なのか。現地でその実態を探った。(文中敬称略)

最先端がそろったトレーニング環境

まるで一つの街であるかのようなキャンパス。生活に必要なほぼすべてのものがそろう 【坂本清】

 東京ドームおよそ50個分もある広大な敷地に、テニスコート55面、野球場7面、天然芝のサッカー場16面、ゴルフコースに陸上競技場、さらには校舎にカフェテリア、学生寮まで……実際にキャンパスを歩いてみると、とにかくその広さに驚かされる。IMGアカデミーでは現在、テニス、サッカー、野球、ゴルフなど計8競技が展開されている。

 生徒数は6歳〜19歳までの1100人(2016年度、以下同)。うち半数が米国人で、残りは世界85カ国から集まった留学生だ。日本人も50人が在籍している。ここで生徒は、午前中と午後のどちらかでキャンパス内の学校に通い、もう一方を基礎トレーニングを含む練習に充てる。

「日本のトレーニング施設とは比較にならない」。そう語るのは、国際部門のマネージャー・田丸尚稔。実際、中高校生向けとは思えないほどの充実ぶりだ。

ウエートマシーンでの練習はすべてデータとして蓄積され、練習量の管理に使われる 【坂本清】

 各施設には最先端の設備が導入されている。昨夏できたばかりの同校2つ目のジムには、大きなウエートマシーンがずらり。そのすべてにカメラが取り付けられており、正しい動作かどうかを自動判定する機能が付いた最新型だ。リハビリ設備がそろったエリアには、体をやや浮かせて膝への負荷を軽減しながら走れる、NASA開発の特殊なトレッドミルが設置されていた。

 トレーニングでは個性を生かした指導を徹底。約240人が学ぶテニスは、レベル別に8つに分かれ、コーチ1人につき生徒4人という少人数制で実施。ヘッドコーチを務める佐藤悠史いわく、生徒の個性を見極め、それぞれに合ったやり方で長所を伸ばす指導が行われているという。錦織らプロ選手も同じコートで練習しており、「(生徒には)良いお手本になりますよね。プロがどうやってボールを打っているかは、子どもたちも見ていて刺激になっています」と教えてくれた。

 もちろん人材も充実している。同校で働く約900人のスタッフのうち、約350人、実に3分の1以上が各分野のエキスパートとして雇用されており、その多くが博士号や専門の資格を取得している。このことが、きめ細かな指導を可能にし、スポーツ医科学やトレーニング方法が常にアップデートされる環境を作り出しているのだ。

精神状態を整えるのもテクニック

ヘッドカメラを用いたトレーニング。3D映像を見ながら複数のボールの動きを記憶する 【坂本清】

 また、すべての土台となる運動能力の向上にも力を入れる。中でもユニークなのが、日本人には聞き慣れない「ビジョン・ブレーン・トレーニング」だ。メンタル・コンディショニングコーチのデイビッド・ダ・シルバによれば、視覚、脳、動作を鍛える訓練で、ストレス環境下でも最大限のパフォーマンスを発揮し、高い集中力を維持できるようにすることを目指している。神経系の能力向上だけでなくメンタル・トレーニングにもつながる内容で、錦織を含めた歴代の卒業生も取り組んでいたそうだ。

周辺視を鍛えるダイナボードでのトレーニング。7〜8週間のトレーニングで効果が見られるという 【坂本清】

 ダ・シルバが「全米で10もない、アスリートの脳と視覚を鍛えるジム」と胸を張る専用ルームではこの日、瞬間的に映し出される複数の数字を記憶するゲームや、回転する円盤に書かれた文字を読み取る訓練が行われていた。

 試しに、周辺視(視野の周辺部を見る力)を鍛える「ダイナボード」をやらせてもらった。視線を正面の一点に向けたまま壁の前に立ち、壁一面に配置されたランプを光った順番に押してその回数を計る。一見簡単そうだが、実際にやってみると、少しでも視界から外れたランプは認識が難しく、焦りが募り、手が止まることもしばしば。高い集中力が求められるため、終わった後は目だけでなく頭にもドッと疲労感が押し寄せる。生徒は、これを含めた9〜10種類あるトレーニングを週1回受けている。

「日本の指導者と話をすると、メンタル(・トレーニング)というと気持ちの弱い子がやるものになってしまいますが、こちらの人はメンタルやビジョン(視覚)をフィジカルと同様にひとつのスキルと捉えており、そのトレーニングはテクニックを向上させるものだと考えています」と田丸は言う。“メンタルを強くする”のではなく、“精神状態をコントロールする技術を教える”のがこのトレーニングなのだ。

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