錦織圭の拠点「IMGアカデミー」とは? 多くのトップアスリートが輩出される理由

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エリートの入学はごくわずか

テニスコートでは未来のトッププレーヤーを目指す少女がコーチとともに練習していた 【坂本清】

 アカデミーの歴史をひも解くと、1978年に開校した世界初の全寮制テニススクール「ニック・ボロテリー・テニス・アカデミー」までさかのぼる。創立者のニック・ボロテリーによれば、アカデミーが目指すのは「人間として、一人一人をベストの状態に導く」こと、そして「心身ともに社会に出るための準備をさせる」こと。“同じ人間は二人といない”との考え方に根ざして、生徒を型にはめるのではなく、一人一人に合った方法で個性を伸ばすのが、創立以来40年間変わらないポリシーだ。

APD(Athletic and Personal Development)」と呼ばれる独自の理論をもとにカリキュラムは構成される 【坂本清】

 アカデミーに入学する生徒全員がエリートなのかといえば、そうではない。多くがスポーツでの成功を夢見る少年少女たちだが、錦織のように奨学生として派遣されたり、アカデミーからのスカウトで入学するトップレベルは限られた数しかいないという。入学希望者には学業での一定の成績が求められるが、基本的に競技レベルは問わない。在学中もスポーツだけやっていればいいという発想はなく、テストの成績が振るわなければ遠征に行けないなどのルールがある。ただし、試合などで授業に出られない時は補習を行うなど、文武両道のためのサポートは万全だ。

 ちなみに授業料は、生活費などすべて込みで最低でも年間700万円ほどかかる(金額は学年や競技によって大きく異なる)。決して安いとは言えないが、この恵まれた環境で学ばせたいと、日本からも毎年、入学希望者が見学に訪れている。

受け継がれる切磋琢磨の精神

練習後の錦織(左から3人目)と記念撮影する生徒たち。さまざまな国やレベルの選手に囲まれ、恵まれた環境で成長していく 【坂本清】

 しかし、アカデミー関係者が何よりもの強みと口をそろえるのは、ハード面の充実でもトレーニングメソッドでもなく、世界中から集まったライバルたちと切磋琢磨(せっさたくま)できる環境だ。かつて、「日本でIMGアカデミーのような学校を作りたい」と相談を受けたことのある田丸も、「日本にノウハウは持っていけるが、(この)環境をつくるのは難しい」と語る。

 各国の実力者たちとしのぎを削る経験がいかに好影響を与えるか。テニスの練習システムを例に挙げると分かりやすい。生徒は年齢や競技歴にかかわらず、レベル別に8つのグループに分けられ、スキルが近い生徒たちと切磋琢磨することでモチベーションを高く保つことのできる環境におかれる。対戦成績やレベルアップ次第でグループ間の入れ替えは随時行われ、下のグループの人が1つ上のレベルで練習ができるようになる仕組みだ。コーチの佐藤は、完全なる実力主義の世界で、子どもたちの闘争心に火がつく場面を幾度と目の当たりにしてきた。

「(上級生たちは)身体的にも勝っているし、年齢も上で経験もあるから負けないですよね。でも、そこで(下級生に)ガツンと一発やられて負けた時には、すごく目の色が変わりますよ」

カフェテリアで昼食を取る升田(左)と森山光壱。プロサッカー選手を目指し、ライバルたちに負けまいと奮闘している 【坂本清】

 切磋琢磨の中で鍛えられた強いメンタルは、今の日本人留学生を見てもうかがい知れる。将来は世界で活躍するサッカー選手を目指す16歳の升田健太に話を聞いた時のことだ。「今度は注目のホープとして取材を」と伝えると、一見控えめな升田が「(大学卒業となる)5年後、そうなりますよ」と強気に言い切った。入学当初から彼を知る田丸も驚いた様子で、「頼もしいなぁ」と目を丸くして喜んだ。

 錦織のジュニア時代には、今ほどテクノロジーは進んでいなかったし、ここまでの設備はなかっただろう。しかし、「負けたくない」「強くなりたい」と、世界各国の選手たちと競い合いながら成長できる環境は、当時も変わらずあったはずだ。

 創立から40年間、各国の子どもたちによって作り出され、受け継がれてきた切磋琢磨の精神こそ、「IMGアカデミー」が名門となった、最たるゆえんなのかもしれない。

(取材・文:小野寺彩乃/スポーツナビ)


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5月20日(土)〜6月24日(土)毎週土曜日AM10時配信

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