NECが感じた圧倒的な世界との「差」 取り組むべきオーバーでのレセプション

田中夕子

今までの「当たり前」では太刀打ちできない

大会前、各クラブチームの監督とポーズをとるNECの山田監督(中央左)と久光製薬の酒井監督(同右)。大会後、両監督とも「今後は積極的にオーバーハンドでのレセプションに取り組まなければならない」と口をそろえた 【写真は共同】

 オーバーハンドでのサーブレシーブ。男子では当たり前のように行う選手も少なくないが、NECや久光製薬の選手だけに限らず、日本の女子選手にはまだ少ない。なぜなら小学校や中学校、高校でも「レセプション(サーブレシーブ)は後ろで構えて、アンダーハンドで丁寧に返すこと」を基本として指導されることが多いからだ。

 もちろんそれは間違いではないのだが、世界へ目を向けるとどうか――。初戦であれほどNECのディフェンスを崩したオザスコのサーブも、2戦目のエジザジュバシュ・イスタンブール(トルコ)にはそれほどの効果を発していなかった。その理由の1つが、レセプションの位置だ。

 エジザジュバシュの選手たちは変化が生じる前にレシーブをすべく、守備位置をアタックラインのやや後ろに取り、オーバーハンドで返球した。何気ないことのように見えるが、オザスコのルイゾマル・デモウラ監督が「オーバーハンドで対応されたことで、われわれのサーブは力を発揮しきれなかった」と言うように、勝敗を分けるポイントになっていたのも事実だ。

 オーバーハンドでレセプションをすれば、変化が生じる前にボールに触ることができるという利点がある反面、ボールの強さやスピードに負け、ボールを弾いたり、落としてしまい、直接相手のポイントにつながるというリスクもある。国内であれば、世界クラブ選手権に出場する選手のような高い打点から、強くボールヒットしてサーブを打つ選手はほとんどいないのだから、リスクを回避し慣れたアンダーハンドでのレセプションでも十分返球できる。

 だが、世界では今までの「当たり前」ではもはや太刀打ちできない。「オーバーはやったことがないから」という消極的な理由だけでチャレンジしないままでは、サーブとレセプションというバレーボールの勝敗に直結するプレーにおいて、世界との差は広がるばかりだ。

日本のバレー界にとっても大きな課題

 海外の選手と比べて手が小さく、筋力が弱い日本人にとって克服するのは簡単ではないが、女子に限らず男子でも「オーバーでのレセプションは苦手」と言う選手は少なくない。メディシンボールなど、重量のあるボールでオーバーハンドパスの練習を始めるところから地道に練習を重ね、何本もボールを受けることで、技術習得に加えて、不慣れなプレーに対する恐怖心を克服しようとしているというのが現状だ。

 とはいえ、ここまであらわになっている以上、オーバーでのレセプションに取り組まないわけにはいかない。NECの山田監督だけでなく、久光製薬の酒井新悟監督も「今後は積極的にオーバーハンドでのレセプションに取り組まなければならない」と口をそろえた。

 もちろんそれは、V・プレミアリーグの選手、スタッフだけに突き付けられた課題ではない。小学生から大学生までの育成年代の指導者にとっても同様であるはずだ。いつまでも「日本人は技術に長けている」「海外勢の高さとパワーに負けた」と思っているだけでは、取り返しがつかないほどに世界との差は広がっていくばかりで、その差は縮まることがない。

 世界の当たり前はどんどん進化している。世界クラブ選手権に出場した選手やスタッフ1人1人が感じた「差」は、日本のバレーボール界にとっても、早急に取り組むべき大きな課題であるはずだ。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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