NECが感じた圧倒的な世界との「差」 取り組むべきオーバーでのレセプション

田中夕子

初の世界クラブ女子バレーボール選手権、NECレッドロケッツの挑戦は7位に終わった。優勝したのはトルコのワクフバンク(写真) 【写真:アフロ】

 表彰台を目指した、初めてのFIVB世界クラブ女子選手権。昨夏のアジアクラブ選手権、そして今季のV・プレミアリーグを制したNECレッドロケッツの挑戦は世界の厚い壁の前に阻まれ、7位に終わった。

 くしくも、大会最終日は開催国代表として出場した久光製薬スプリングスとの対戦となった。NECは3−0のストレートでようやく初勝利を収めた。8チーム中7位という結果に、近江あかりは悔しさをにじませながらも、最後は笑顔でこう言った。

「久光は速いバレーで海外と戦ってきたけれど、私たちは速さではなく常に攻撃が4枚、5枚と入って枚数を増やすバレーをやってきた。1本目を高くするNECのバレーには賛否両論があるかもしれませんが、私たちは信じてやってきたし、最後まで貫くことができて良かったです」

 クラブとして初めて対峙(たいじ)する「世界」。そこで見えた「差」は想像をはるかに上回るものだった。

オザスコとの初戦は0−3の完敗

古賀紗理那は初戦の後、「相手の強打に対する警戒が強くなりすぎて、自分たちのプレーに全く余裕が持てませんでした」と完敗の理由を述べた(写真は16年12月のもの) 【写真:アフロスポーツ】

 サーブが返らず、スパイクが通らない。

 予選グループリーグ1日目、ネスレ・オザスコ(ブラジル)戦は0−3の完敗だった。

 セッターのダニエル・リンスやウイングスパイカーのタンダラ・カイシェタなど代表選手を擁し、「高さ」と「パワー」で相手が上回っているのは一目瞭然。だが、両チームの間に生じた差は、そんな常とう句で片付けられるものではなく、もっと根本的なことだ。

 試合前に両チームが合同で行う10分間の公式練習時、アタックラインのあたりへスパイクを打つNECの選手に対して、オザスコ(レクソナ)の選手はコートのエンドラインギリギリやクロスの奥を狙って打っていた。パワーがあるから力いっぱいにたたきつけるのではなく、コートの深い場所を確実に狙って打つ。その技術力の高さは試合でも随所で発揮されていた。NECのブロックに対して、安易に下へたたきつけるのではなく、高い打点からコートの奥を狙って打つ。さらにスパイクだけでなくサーブでも、コート後方に伸びるサーブを打ったかと思えば、今度は前に落とす。

 臨機応変に攻撃パターンを変えるオザスコに、前夜のミーティングでこれまでの試合映像とデータをもとにレシーブシフトをやや後ろに下げていたNECのディフェンスは大きく崩された。

 点差が離れれば焦りが生まれ、余裕がある時ならば冷静にできるプレーも余分な力が入り、「普通」ができない。近江の言葉にあるように「攻撃枚数を増やす」べく、相手の攻撃を切り返す際やチャンスボールはやや高めにセッターへ返して「間」をつくり、その間を使って複数のアタッカーが一斉に助走に入る。それこそが今季のNECスタイルの象徴だったのだが、初戦では影を潜めた。

 バンチリードの相手に対し、攻め急いで単調になった攻撃はことごとく阻まれ、第1セットを11−25という大差で失い、そのままストレートで敗れ、初戦を飾ることはできなかった。完敗の理由を古賀紗理那はこう述べた。

「相手の強打に対する警戒が強くなりすぎて、自分たちのプレーに全く余裕が持てませんでした。来る、来る、と思うから自然に動きも速くなってしまって、とにかく必死につなげるだけ。そこに精いっぱいで、次につなげることが考えられずにバタバタしてしまいました」

古賀「オーバーでサーブレシーブをしなくては」

 何もできないまま敗れた初戦を糧に、近江が「改めて挑戦者として戦おうと全員で言い合って臨んだ」という2戦目からは、近江とリベロの鳥越未玖を中心に1本目のパスを高く返し、前衛だけでなくバックアタックの助走にも積極的に入る、NECらしい戦い方を見せた。

 特に、唯一1セットを奪取した4戦目のディナモ・モスクワ(ロシア)との試合では、バックアタックも含めた4枚攻撃に相手のブロックが分散する場面もあり、セッターの山口かなめも「スパイクの枚数が減ると終盤がきつい。4戦目になって、20点以降に得点を取る形がやっとできた」と言うように、取り組んできたスタイルは間違っていない、という手応えを4戦目になって、ようやくつかむことができた。

 5試合を戦い1勝4敗で7位。山田晃豊監督が「ここに来なければ分からない、圧倒的な世界との差があった」と大会を振り返るように、厳しい結果に終わったが、それ以上に大きな課題が見えたと古賀は言う。

「今まではこれでいいと思ってチャレンジしなかったけれど、今のままでは絶対に通用しない。世界と戦うために、これからはオーバーでサーブレシーブをしなくてはダメだと思い知らされました」

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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