熟女馬匹(ひつ)レイアーが行く「競馬巴投げ!第144回」1万円馬券勝負

乗峯栄一

「馬匹輸送」この漢字を読める人が少ない

[写真3]クイーンズリング 【写真:乗峯栄一】

 でも、この映画の中で、ここだけは「異議あり」と挙手したかった。

 以前、淀競馬場に若い女性二人を案内したことがある。帰りの納所(のうそ)の交差点でバスの横に馬運車が並ぶ。

 馬運車にはだいたい「馬匹輸送」と書いてある。まず、この漢字を読める人が少ない。これは「ばひつゆそう」と読む。「ばひきゆそう」とか「うまひきゆそう」と読んではいけない。しかしもし漢字が読めたとしても「馬匹」の意味を知っている人はさらに少ない。「ばひつ」を広辞苑で引くと「馬のこと」と出ている。でも「馬匹=馬」なら「馬輸送」と書いておけばいいんじゃないか。この点もおじちゃんはちゃんと調べた。

「匹」というのは元々、馬を代表とする家畜を数える単位だった。つまり「馬匹輸送」と書くことは、単に「馬輸送」と書くよりも「馬という家畜を運んでますよ」というニュアンスを含む。

 馬を「一匹・二匹」と数えるのは失礼だ「一頭・二頭」と言いなさいというムードがあるが、「匹」という単位は元々馬を数えるために出来た漢語で、その名残りが、いまの馬運車の「馬匹」という単語に残る。馬を「一匹・二匹」と数えるのは失礼なことではない。

 と、ウツミくんなら、そう言う。セトなら「知ったかぶりするなよ」などとは言わず「そうかあ。そういう歴史があるのか」などと(たとえ分かってなくても)腕組みして大きく頷くはずだ。

馬のヒヅメが見えたって、かわいくも何ともないぞ

[写真4]スマートレイアー 【写真:乗峯栄一】

 しかし、わが現実はそうではない。

「あの横のトラックの下に書いてある“馬匹輸送”っていう字、何と読むと思う?」とさりげなく女の子たちに質問するが、その質問は無視されて「うわ、馬が乗ってるトラックやわ」と馬好きの女の子たちは感動する。

「あれは“バヒツ輸送”って読むんや。“ウマヒキ輸送”なんて読んだら笑われるからね。ははは」と“競馬のウツミくん”は説明に入るが、女子たちは全然聞いてない。じっと馬運車を覗き込み「あ、脚が見える」と突然叫ぶ。馬運車の下の方に小さな窓があり、そこから馬のヒヅメが見えている。「あ、ほんとやわ、かわいーい!」「キャー、かわいーい!」とお互い手を取って喜び始める。

 あのなあ、お前ら、人の話を聞かないのはまだしも、馬のヒヅメが見えたって、そんなもの、かわいくも何ともないぞ。馬のヒヅメが一々かわいかったら、装蹄師はどうなるんだ!「うーん、かわいーい、わ、こっちの馬のヒヅメもかわいーい!」と見とれてばかりいて、そんなおカマみたいな装蹄師ばかりだったら仕事にならんだろうが。

 何でもよく知っている優等生ウツミと、劣等生だが他人の言葉をよく聞いて深く納得するセト、この「ウツミ」と「セト」だと、セトになる方が遙かに難しく、修行を要する。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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