ポゼッションの栃木、短時間攻撃の千葉 アナリスト視点でBリーグを見よう(6)
本記事で扱うデータは、Bリーグが競技力向上のためにB1に導入したバスケットボール専用の分析ツール「Synergy」の数値を元にしている。Bリーグ初年度のクライマックスを、データとともに楽しんでいただきたい。
リバウンド重視で攻撃権を得る栃木
【(C)B.LEAGUE】
攻撃権を強奪し、ポゼッションゲームを制するのだ。この攻撃権の奪い合いにおいて、日本で栃木の右に出る者はいない。
自チームの攻撃権を増やす方法は大きく分けて2つ。オフェンスリバウンド(ORB)を取得することと、相手のミス=ターンオーバー(TOV)を誘うことだ。ポゼッションゲームという表現になじみがなくとも、人気バスケアニメの「リバウンドを制する者は試合(ゲーム)を制す!!」という名台詞はご存知だろう。かつてNBAでマジック・ジョンソン擁するロサンゼルス・レイカーズを率いて3連覇を成し遂げた名将パット・ライリーの名言“No Rebound, No Rings”=「リバウンドなしに、(チャンピオン)リングはなし」にインスパイアされているという説もある。
制するという言葉の意味を「数で上回る」と解釈してしまうと誤解が生じる可能性があるが、制するとはすなわち「支配すること(=実数ではなく取得率で上回る)」ということだと、僕は長い年月を経てようやく理解できた。
栃木は全60試合を通じて、自身のポゼッション総数が5165回とリーグ最多。さらに相手のポゼッション数は4744回で最小である。当然その開きは「+421」とリーグ最大だ。シーズンを通じて自らのポゼッション総数よりも相手のポゼッション数が上回ったチーム(=開きがマイナスに転じたチーム)は11チームで、栃木以外でプラスに転じているチームは6チームで彼らの開きを合計して「+366」とお伝えすれば、栃木のポゼッションを掌握する力がこのリーグでいかに大きいかお分かりいただけると思う。この差は、太陽系の広さと宇宙の広さぐらい違うと言ってもいい。
まずリバウンドから説明すると、ディフェンスリバウンド(DRB)を取ることに栃木がプライドを持っているのは言うまでもない。ここを抑えない限り、常に攻撃権を相手に与え続けることになるので優位に立つことは難しい。相手に与える1試合平均9.3本のORBはリーグ最小だ。その上でシーズンを通じてORBの取得数は平均15.6本と規格外。これだけで1試合平均約6回以上、相手より攻めの回数を増やしたことになる。外角の決定力に欠けるという課題もあるので、ORBの機会も確かに強豪チームにしては多いのかもしれない。しかしそれでも驚異的な数字だ。
ポゼッションで上回ることが生命線
オフェンスリバウンド平均4.28本のロシター(32番)を中心に、リバウンドでポゼッションを高めている栃木 【(C)B.LEAGUE】
ORBや相手から誘うTOVに共通することは、攻撃権を増やすばかりでなく、即高確率な攻撃につなげられるという特徴がある。4〜6点分のインパクトを試合に与えることで“勢い”というコート上の魔物さえ味方にしてしまう。
事実、ORB直後に得点に結びつけるセカンドチャンスポイントも11.6点とリーグ最高で、その頻度も栃木の攻撃12回に1回の頻度で起きる水準である。攻撃全体の得点効率はリーグ7位、CS進出チーム中6位であることを考えれば、ポゼッションで上回ることが栃木の生命線でもあるかもしれない。
リバウンドやスティールを連発してマイボールにするのは、平均ORBが4.28本、スティールが1.5回のライアン・ロシター、そしてORB2.78本、スティール1.32回のジェフ・ギブスだ。外国籍選手には出場枠制限があるため、ジェフは出場時間が1試合あたり20.5分に限定されるが、彼の出場時をライアンの出場に近い30分に合わせると、ORBは平均4.1本にまで到達し、その支配力が浮かび上がってくる。
またポゼッションの重要性が理解できると、田臥勇太のルーズボールへの執念が数字に表れなくともいかに大きな意味を持つのかもご理解いただけるだろう。
栃木の代名詞がディフェンスであることはご存知の方も多いと思う。そのディフェンス力に補足をするならば、彼らのスティールはギャンブル性のものではないということだ。相手に許すタイプのシュート、また相手に許す決定力もディフェンスとしては素晴らしい数字を残している。彼らに対して攻撃が停滞してしまえば、圧倒的な重力の力で銀河の海に藻くずと散る覚悟をしなければならない。