ポゼッションの栃木、短時間攻撃の千葉 アナリスト視点でBリーグを見よう(6)
「ペース&スペース」を具現化する千葉
ペースと言う言葉は少しトリッキーでもあるので解説しておくと、バスケットを分析するアナリストの言葉では「1試合で何回攻撃するか」を指す。そして、ペースを早めることは、攻撃を短時間に終了することを意味する。しかしNBAのチーム関係者に話を聞くと、ペースとはハーフコートに入った後の攻撃にも求められるもので、選手やボールが流れを止めないこと、といった感覚的なものにも使われるそうだ。
世界で主流になっているピック&ロールの目的は、ハーフコートの中で数的優位の状況やトランジション(攻守の切り替え)を生み出すこと。ピック&ロールの絶対数はNBAでも比較的少ないが、最大効果を生み出すゴールデンステイト・ウォリアーズの選手は自分たちの攻撃を「組織化されたカオス」と呼び、アナリストの世界で言うところのペースも極めて速い。
また攻守の切り替えが起きて、守備側の体制が完全に整わないアーリーオフェンスの状況とピック&ロールの相性は極めて良い。ピック&ロールを守るためのシフトやローテーションはおろか、コミュニケーションの準備すら整っていない状態で一撃をお見舞いすることができるからだ。
ペースを速めて、ハーフラインを早く超えることにはもうひとつ効果がある。それは5対5よりも4対4、3対3、2対2、1対1とコート上に立つ選手の人数が減り、1人の選手が自由に使えるスペースが広ければ広いほど、バスケットボールは攻撃が優位になる性質があるということ。
ディフェンスがスクランブル状態に陥る数的優位(=カオス)は、ペースとスペースの相乗効果で生まれる。ピック&ロールを行う際、コートを実際のサイズよりも広いとディフェンスに感じさせる3Pの効果にも通じる。このスペーシングの概念については、あらためて「3Pシュートの価値は1.5倍!?」のコラム(※1)を一読願いたい。
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シュートセレクションはリーグNO.1
逆にリーグ平均が0.737PPP(=Points Per Possession)と得点の期待値が最も低いミドルレンジからの得点は総得点の8.3%にすぎず、リーグで唯一の一桁台にとどめている。攻撃の目的の半分は「誰にどこで打たせるか」ならば、千葉のシュートセレクションと遂行力もまたリーグNO.1と言える上に決定力も十分だ。
これらの特徴を際立たせる選手を挙げるならば、リーグで2番目に多く速攻に繰り出した切り込み隊長タイラー・ストーン(216回)ともう1人。今季3Pシュートを100本以上、アシストを150本以上、ペイントエリア内得点が200点以上という3つの条件をクリアした2人のうちの1人、富樫勇樹だ。ストーンも出場時間を富樫に合わせると154.5アシストを記録していることに加え、キャプテン小野龍猛もシーズン141アシストと高水準。千葉はピック&ロールのみならず、多彩な手段でディフェンスを解体できることを物語っている。
この両雄の対戦は、見どころやマッチアップの面白さを挙げると切りがない。あえて最初に挙げるならば、今季主にベンチから出場してきた外国籍選手達の中で最も試合に影響力を及ぼしてきた両クラブの2人、ジェフ(栃木)とストーン(千葉)だ。
ディフェンシブなジェフとオフェンシブなストーンの対比は、陰と陽、矛と盾などどう形容してもいい。彼らの出来が優勝すら左右するという意味では、2人のうちどちらがリーグのmost impactful player(最もインパクトのある選手)かを決める対決でもある。
そして、栃木と千葉は守備で拮抗(きっこう)した高い数字を出している。一番の特徴は外角のシュート力だろう。ここに課題がある栃木は攻撃権を増やして補う必要がある。対して千葉は3Pシュートで攻撃権の少なさを相殺できる。例えば相手よりも5本多く3Pシュートを決めればそれだけで15点差がつくが、相手が同じ本数だけ2Pシュートを決めていれば5点差。これをポゼッションの数にすれば5回分。ということで、栃木はORB、千葉は3Pシュートの成功数が鍵を握っている。さらには、お互いにどう相手の強みを消すのかにも注目するとより面白いはずだ。
(データ提供:B.LEAGUE、グラフィックデザイン:相河俊介)