チャンスは作るも、点が取れない広島 悪くはないチームに足りない「余裕」
悪くはないが、「痛い」失点が多い
16日の横浜FM戦。広島は前半4分に中澤(22番)のゴールを許し、0−1で敗れた 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】
エディオンスタジアム広島を埋めた1万2651人のサポーター、特に大多数を占めるサンフレッチェ広島側の人々は、驚きを禁じ得なかった。16日に行われた横浜F・マリノス戦の前半4分、なぜ中澤佑二がフリーになっていたのか。彼だけではない。その外側には金井貢史も、フリーで裏を取っていた。
最初のセットプレーで、もっとも危険な選手を含む2人がなぜフリーになったのか。原因を何度も映像で確認してみた。中澤のマークについていたのは塩谷司。だが、振り切られた彼だけが悪いとは言えない。守備は組織だ。セットプレーのマンマークであればなおさら、周りがいい声を出してマークを確認し、チームとして守りをオーガナイズする必要がある。それができていたのかどうか。
横浜FMに0−1で敗れ、広島は順位を17位に落とした。1日の柏レイソル戦に続き、ホームゲームでは2度にわたって、開始5分以内で失点してしまった。しかもいずれも、自分たちのミスから。さらにセットプレーでの失点は、PKを含めれば5失点目(7節終了時点の広島の総失点数は8)。こう書けば問題が多いと感じるかもしれない。しかし逆に言えば、組織を崩された失点はアルビレックス新潟戦の1点だけ。流れの中での守備は決して悪くはない。
悪くはないが、ゲームの流れの中での「痛い」失点が多いことも事実だ。たとえば同点の状況で前半終了間際に失点したのが2試合(サガン鳥栖戦と北海道コンサドーレ札幌戦)。開始5分までの失点が2試合。キックオフ直後と前後半終了直前での失点は、ゲームのストーリーそのものに大きな影響を及ぼすことはサッカー界の常識。「試合巧者」と言われた面影は、今の広島にはない。
第6節の柏戦以降、森保一監督は「ボールを失ったらプレスではなくブロックをつくる」という、広島の基本線を徹底させた。それまでは「ボールを奪いにいく守備」も切り替え時には併用していたのだが、そこが意識の不徹底につながったとの判断からだ。その戦い方が7日のガンバ大阪戦での今季初勝利を呼び込んだとは言える。だが、その目論見も、開始5分で自ら失点の要因を作ってしまえば水の泡だ。
シュート数はリーグナンバー1
リーグナンバー1のシュート数を誇る広島の攻撃陣だが、なかなかゴールが奪えない 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】
シュート数ではリーグナンバー1(99本)を誇る攻撃陣も、ゴールネットを揺らせたのはわずか3度。平均得点0.43はリーグ17位という矛盾(いずれも第7節終了時点)。「チャンスはできている」。それは指揮官も選手たちも異口同音に言う。だが、サッカーがゴールネットを揺さぶることを目的としている以上、何本シュートを打っても結果に対しての意味はない。野球でいえば「残塁の山を築いている」だけだ。
結局、点が取れないから、開始早々の失点が目につく。たとえば優勝した2015年、ファーストステージ第6節のFC東京戦で、広島は開始1分で失点した。だが11分には柴崎晃誠のゴールで追いつき、後半に登場した浅野拓磨(シュツットガルト/ドイツ)のリーグ初得点で逆転勝利。同シーズンの第8節でも横浜FMを相手に4分で先制されたが、27分にドウグラス(アルアイン/UAE)のゴールで追いつき、後半には佐藤寿人(名古屋グランパス)が逆転ゴールを決めた。ひっくり返せばチームに勢いがつき、守備陣にも「点を取ってくれる」という信頼感・安心感が生まれ、「余裕」が芽生えるものだ。
ハンドルに「遊び」が必要であるように、ハードディスクも空き容量が少ないとエラーが頻繁に起きるように、サッカーにおいても「余裕」は大切だ。チャンスがあっても点が取れない理由の1つは、ゆとりがないため、遊び心を発揮できず、結果として正直なシュートになってしまうこと。相手GKのファインセーブに阻まれたというビッグチャンスは正直、それほど多くはない。せっかくのチャンスもGKにぶつけてしまったり、枠外に飛んでいったり。工藤壮人は「力んでいることはない」と言うが、柏時代にゴールを量産していた姿と比較すれば、GKとの駆け引きを楽しんだり、シュートのバリエーションを見せているわけではない。
「自分が決めて広島を勝利させる」
そんな責任感の重さは、工藤だけでなく、フェリペ・シウバにもアンデルソン・ロペスにも感じられる。そのメンタル的な余裕のなさがゴール前でのプレーに影響していることは、現実なのだ。得点を取れない理由はそれだけではないが、チャンスを決められない大きな要因はそこにある。