J2を盛り上げるために必要なことは? 本音で語らうJリーグ 佐藤寿人編

宇都宮徹壱

村井満チェアマン(左)と名古屋の佐藤寿人(右)が、間もなく開幕するJリーグに向けて意見交換を行った 【宇都宮徹壱】

 まもなく始まる2017年のJリーグ。今年、J1は2月25日、J2は26日、そしてJ3は3月11日が開幕日となっている。思えば今オフもさまざまな人事往来(=移籍)が話題になったが、J2で最も話題になったのは、サンフレッチェ広島の佐藤寿人が、初のJ2降格となった名古屋グランパスに三顧の礼をもって迎えられたことだろう。

 2月13日に行われたJリーグキックオフカンファレンスでは、J2の22クラブの選手たちが一同に介して記念撮影が行われ、その中に赤いユニホームを着た佐藤の姿もあった。本人は「もう見慣れた」と語っているが、それでも12シーズン在籍した広島の紫のイメージはやはり強い。13年ぶりの移籍、そして9年ぶりのJ2。「名古屋の」そして「J2の」佐藤寿人にわれわれが慣れるのは、もう少し時間が必要だろう。

 そのカンファレンス当日、佐藤と村井満チェアマンとの対談が実現した。両者は佐藤が選手会の会長をしていた時から、互いの立場を理解しながら忌憚(きたん)なく話し合える関係にあったという。またチェアマン自身、プレーヤーとしての佐藤もリスペクトしており、J1でシーズン2桁得点を記録した時に直筆の絵葉書を送ったこともあったそうだ。今回の対談では、佐藤の新天地である名古屋について、そして久々にプレーするJ2について、それぞれの視点から意見交換していただいた。

チェアマンが佐藤の移籍に注目する理由

赤いユニホームを着た佐藤の姿に「まだ見慣れない」と村井チェアマン。佐藤も「今でも広島の印象が強いみたいですね」と笑う 【宇都宮徹壱】

――今日のJ2クラブの記念撮影で、赤いユニホームを着た寿人選手に注目が集まりました。チェアマンの印象はいかがでしたか?

村井 やっぱり、まだ見慣れていないね。これから慣れるとは思いますけど。

佐藤 加入会見から時間も経っていますし、今は赤いウェアでトレーニングしているので、僕自身は見慣れたつもりでいたんですけれど。でも今日、久しぶりに(広島の)青山(敏弘)選手や森保(一)監督とお会いして、やっぱり見慣れないと言われました。今でも広島の印象が強いみたいですね(苦笑)。

――名古屋移籍を決断するまでには、ご自身の中でもいろいろと葛藤があったようですが、当時を振り返ってみていかがでしょうか?

佐藤 オファーをいただいた名古屋と、残留をというお話をいただいた広島。どちらに対しても、できるだけ早く決断しないといけないという思いがある一方で、非常に重い決断になるのでゆっくり考えたいという思いもありました。これまでのプロサッカー選手としての人生のみならず、今まで生きてきた中で一番の決断だったと自分では思っています。

――チェアマンとしては、個々の選手の移籍に言及するのは立場的に難しいとは思います。それでも、12年のJリーグMVPであり得点王でもある寿人選手の今回の移籍については、いろいろと思うところがあったのではないでしょうか?

村井 僕にとっての寿人選手は、やはり選手会長(のイメージ)なんですよね。もちろん、広島がタイトルを獲得したときの中心選手というイメージがある一方で、全クラブの選手の権利や主張を代弁する立場として、チェアマンと対峙(たいじ)する人というイメージもありました。そういう選手が今回移籍するということは、僕からしても非常に関心度の高い出来事なんですね。

 それともうひとつ。移籍先の名古屋ということで言えば、現場に対する影響力やキャプテンシー、そして風間(八宏)監督が考えるコンセプトをどうチームに落とし込んでいくかというところですね。その上で、いろいろなクラブでプレーしてきた寿人選手の経験値というものが、クラブにどんな変化をもたらすのかということについても、個人的には関心があります。

「選手は実は時間がいっぱいあるんです」

選手会長を務めていた佐藤が言った「選手は実は時間がいっぱいあるんです」という言葉が印象に残っていたと村井チェアマンは語る 【宇都宮徹壱】

――今、チェアマンから「選手会」というお話が出ましたけれど、寿人選手からはどんな要望があったのでしょうか?

佐藤 選手の環境改善もそうですけれど、それ以上にリーグも選手も一緒になって「Jリーグを盛り上げていきたい」というお話をよくさせていただきました。僕らも、ただ単にプレーするだけではなくて、「どうやったらもっとJリーグを知ってもらえるか」ということを考えていかなければいけない。その一方で「そういう意識を個々の選手がどれだけ持てるのか」ということは、自分が選手会長を務めていたときには常に感じていました。

――「どうやったらもっとJリーグを知ってもらえるか」という問題提起は、いかにも寿人選手らしいですね。

佐藤 たとえば首都圏のクラブと地方のクラブとでは、それぞれ置かれている状況が違います。それでもやはり、より多くの人たちにJリーグを知ってもらわないと盛り上がらないし、サッカー文化も根付いていかない。それは最終的に選手にはね返ってくる話でもあるんですよね。ですから、できるだけ多くの選手が意識してくれるように(選手会の中で)僕が話したり、意見交換したりするよう取り組んできました。

――チェアマンは寿人選手とやりとりをする中で、特に印象に残っている発言やアイデアといったものはありますか?

村井 何度か寿人選手が言っていたのは、「選手は実は時間がいっぱいあるんです」ということでした。つまり、練習の時間は限られているから、自由に使える時間が実はいっぱいある。そこで手軽に遊んでしまう選手もいれば、将来のために英会話の勉強など自己投資する人もいると。だから「プロの選手はピッチ上のプレーだけでなく、社会人として自分をどう高めていくかということは、とても重要だと思います」という話を、それこそ毎回のように言っていましたね。

――選手のセカンドキャリアにつながっていく話ですよね。

村井 こういう話って、どうしても「出口の話」をしがちなんですけれど、要は「現役時代に選手自身の価値をどう高めていくか」ということなんですよ。選手会は経営側に要望することが多いと思うんですが、寿人選手が会長をしていた時は、選手に要望する姿勢もあったことが、ものすごく印象に残っています。その後、選手会長が代わりましたが(現会長は高橋秀人=ヴィッセル神戸)、DAZNマネーが入ってくることで年金などのベースも変えられるようになるわけですけれど、選手の人間力を高めていくためにリーグとしてどう貢献していくかということについても、自分への宿題ととらえています。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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