フェデラーとナダル、感傷なき決勝戦 完全カムバックでライバル物語は新章へ

内田暁

ケガからの復帰シーズン 全豪決勝での感傷を伴う興奮

昨シーズンはケガに苦しんだフェデラーとナダル。全豪決勝での対決から2カ月、マイアミ・オープンで二人は再びタイトルを懸けて戦った 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 1月末の全豪オープンテニスで決勝に勝ち上がった時、二人はくしくも、同じ日に想いをはせていた――。
「3カ月前には、僕らがこの決勝で戦うことになるなんて、どちらも信じられなかったはずだよ」
 一足先に全豪決勝への切符を握りしめたロジャー・フェデラー(スイス)は、少しばかり、声を上ずらせる。
「あの頃のことを思えば、二人で決勝を戦えるなんて信じられない」
 フェデラーの背を追うように同じ決勝の舞台へと駆けこんだラファエル・ナダル(スペイン)は、準決勝の勝利後に開口一番、そう言った。

 互いに「最高のライバル」と認めあう両雄の、郷愁混じりの回想が交錯する地――それは昨年10月、地中海の西に浮かぶ、ナダルの故郷のマヨルカ島であった。
 この時の二人は、テニスウェアの代わりにスーツをカジュアルに着こなし、ラケットの代わりに談笑を交える。その日は、ナダルが開設したテニスアカデミーのオープニングセレモニーであり、フェデラーは特別ゲストとして参席していた。しかし、予定されていた両者によるエキシビションマッチが、行われることはない。
「僕は片足しか使えないし、ラファは手首を痛めている。しかたないから、ギャラリーの前で二人でミニテニスをやったよ。当時の僕らには、あれが精いっぱいだったんだ……」
 この時のフェデラーは、膝の手術からの復帰を目指し、リハビリとトレーニングに励む最中。ナダルも利き手の左手首を痛め、シーズンを早めに切り上げていたのだった。

 それから3カ月後、二人は真夏のメルボルンで、通算9戦目となるグランドスラム決勝を戦う。
 試合前のナダルが「もう二度と起きないことかもしれないから、みんな楽しんでいってよ!」と報道陣を笑わせれば、フルセットの死闘の末に勝利を手にしたフェデラーは、「テニスに引き分けはないが、君とだったらこの優勝を分け合いたい」とライバルに言葉を送る。
 両者がタイトルを懸けて戦うのは、もしかしたらこれが最後かもしれない……そんな感傷を伴う興奮が、アリーナを満たしていた。

初対戦の地マイアミ 決勝で再び顔合わせ

以前よりさらに鋭さを増した、フェデラーのバックハンド。“新たな武器”として、ナダルを苦しめた 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 それから、2カ月後――。フェデラーはマイアミの地で、12〜13年前の日々に想いをはせていた。通算37度の戦いを重ねてきたフェデラーとナダルの、その初対戦の舞台となったのが、ここマイアミ。2004年当時世界1位に座したばかりのフェデラーが、17歳の若武者にまさかの敗戦を喫するところから、二人の物語は始まった。翌年、二人は今度は決勝で対戦し、この時はフェデラーが誇りと執念の勝利をつかみ取る。当時のマイアミ大会は、決勝戦のみ5セットマッチで競われていた。2セットを落としながらもそこから逆転勝利をもぎ取ったこの一戦を、35歳になった今のフェデラーは「僕のキャリアにおける一つの転換期。あの試合で僕は、対戦相手や僕自身、そして僕のチームスタッフたちにもファイティングスピリットを示したんだ」と感慨深げに振り返った。

 その“始まりの時”から、一昔以上の月日が流れ、しかし二人は依然として男子テニス界のシンボルであり、あらゆる意味でフロントランナーだ。
 ケガから復帰し迎えたシーズンながら、フェデラーは全豪に続き、インディアンウェルズでのマスターズ大会(BNPパリバ・オープン)をも制する。その過程では4回戦でナダルと対戦し、6−2、6−3のスコアで圧倒した。
 一方のナダルも、全豪後にアカプルコ大会(メキシコ・オープン)でも準優勝しており、マイアミが早くも今季3度目の決勝である。その3度目の決勝の相手にフェデラーを迎えたナダルは、周囲の“ライバル決勝”を煽る空気にも迎合することなく、「僕にとっては、決勝に到達したという事実が大切だ。相手が誰かは関係ない」と特別な感慨を見せはしない。「楽しんでいってよ!」と笑顔で言った、あの1月の感傷はそこにはなかった。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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