フェデラーとナダル、感傷なき決勝戦 完全カムバックでライバル物語は新章へ
より強く、武器が増えた二人の戦い
しかし今、フェデラーのバックはボールの跳ね際を鋭くたたく、新たな武器と化している。一方のナダルも弱点と見られたセカンドサーブを強化し、ネットにも出るプレーを確立している最中だ。ナダルのサービスゲームの進化は、今大会を通じ71%の高確率で決めたファーストサーブと、81%の高いポイント獲得率。そして62%のセカンドサーブでのポイント獲得率と、フェデラーをも上回る92%のサービスゲーム獲得率に表れていた。
しかしフェデラーはナダルのサーブに、より攻撃性を増したリターンで対抗する。象徴的だったのが、最終的に試合を決した第2セットの第9ゲーム。ナダルの頭上を鮮やかに抜くロブボレーでブレークポイントを手にしたフェデラーは、続くポイントではナダルのセカンドサーブをバックでたたき、リターンでブレークを奪い取った。
迎えたフェデラーのサービスゲームでは、最後はナダルのリターンがラインを越え、1時間35分の戦いに終止符が打たれる。飛び跳ねながらウイニングボールを客席に打ち込み、勝利をかみしめるように体を屈める王者の姿が、6−3、6−4のスコアには映しきれぬ試合の密度と、歓喜の大きさを物語っていた。
フェデラーの歓喜、敗れたナダルの表情
表彰式でそう言いファンを笑わせたナダルだが、その足で会見室に直行した時、彼の表情は終始厳しくこわばっていた。
「ロジャーのような選手が、自信を持って高いレベルでプレーをしたら、誰にとっても倒すのは難しい」
敗因を簡潔に語る彼は、ライバル語りを期待する記者の問いにも、「お互いに世界の1位や2位で何度も対戦していけば、ライバルと言われるようになるさ」と応じるのみだった。
勝者のフェデラーも、決勝の相手がナダルだという事実そのものに、深い意味を持たせようとはしない。
「もちろん今日は気合いが入っていたが、それが相手がラファだからか、あるいは単に決勝という状況からなのかは分からない。恐らくは、両方だろう」
最高のライバルとの一戦を、彼は淡々と振り返った。
マヨルカ島で、友情と喜びと、少しの不安を交わすようにミニテニスでボールを打ち合った日から、5カ月後――。二人は既に3度の対戦を重ね、そのうち2つが決勝戦の大舞台であり、そしてフェデラーが3つの勝利を持ち帰った。
両者に底通する“復帰”というテーマについても、ナダルは「ここまで高いレベルのプレーができている。タイトルを取る準備はできている」と語気を強め、フェデラーは「“カムバック”は、もう終わりだ」と言い不敵な笑みをすっと浮かべる。
1月のメルボルンを覆ったノスタルジーは、3カ月後のマイアミにはもう存在しなかった。
二人の物語は今、テニス界の頂点をかけ凌ぎを削る純然たるライバルとして、続きのチャプターを瑞々(みずみず)しく紡いでいく。