フェデラーとナダル、感傷なき決勝戦 完全カムバックでライバル物語は新章へ

内田暁

より強く、武器が増えた二人の戦い

試合に敗れて、厳しい表情を浮かべたナダル。感傷にひたるような“ライバル対決”はもう終わりだ 【Getty Images】

 マイアミでの初対戦から13年の月日がたち、その間に22度タイトルを懸けて戦ってきた二人だが、2017年のセンターコートで繰り広げられる戦いは、既視感を否定していた。かつてのナダル対フェデラー戦では、左腕から放たれるナダルの重いスピンを、フェデラーがいかにフォアに回り込みたたくか、あるいはネットに出てボレーで決めるかが、戦いの眼目だった。

 しかし今、フェデラーのバックはボールの跳ね際を鋭くたたく、新たな武器と化している。一方のナダルも弱点と見られたセカンドサーブを強化し、ネットにも出るプレーを確立している最中だ。ナダルのサービスゲームの進化は、今大会を通じ71%の高確率で決めたファーストサーブと、81%の高いポイント獲得率。そして62%のセカンドサーブでのポイント獲得率と、フェデラーをも上回る92%のサービスゲーム獲得率に表れていた。

 しかしフェデラーはナダルのサーブに、より攻撃性を増したリターンで対抗する。象徴的だったのが、最終的に試合を決した第2セットの第9ゲーム。ナダルの頭上を鮮やかに抜くロブボレーでブレークポイントを手にしたフェデラーは、続くポイントではナダルのセカンドサーブをバックでたたき、リターンでブレークを奪い取った。

 迎えたフェデラーのサービスゲームでは、最後はナダルのリターンがラインを越え、1時間35分の戦いに終止符が打たれる。飛び跳ねながらウイニングボールを客席に打ち込み、勝利をかみしめるように体を屈める王者の姿が、6−3、6−4のスコアには映しきれぬ試合の密度と、歓喜の大きさを物語っていた。

フェデラーの歓喜、敗れたナダルの表情

強いフェデラー、強いナダルが戻ってきた男子ツアー。新たな物語が始まった 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

「今季は良いプレーができている。ロジャーには負けてばっかりだけれどね」
 表彰式でそう言いファンを笑わせたナダルだが、その足で会見室に直行した時、彼の表情は終始厳しくこわばっていた。
「ロジャーのような選手が、自信を持って高いレベルでプレーをしたら、誰にとっても倒すのは難しい」
 敗因を簡潔に語る彼は、ライバル語りを期待する記者の問いにも、「お互いに世界の1位や2位で何度も対戦していけば、ライバルと言われるようになるさ」と応じるのみだった。

 勝者のフェデラーも、決勝の相手がナダルだという事実そのものに、深い意味を持たせようとはしない。
「もちろん今日は気合いが入っていたが、それが相手がラファだからか、あるいは単に決勝という状況からなのかは分からない。恐らくは、両方だろう」
 最高のライバルとの一戦を、彼は淡々と振り返った。

 マヨルカ島で、友情と喜びと、少しの不安を交わすようにミニテニスでボールを打ち合った日から、5カ月後――。二人は既に3度の対戦を重ね、そのうち2つが決勝戦の大舞台であり、そしてフェデラーが3つの勝利を持ち帰った。
 両者に底通する“復帰”というテーマについても、ナダルは「ここまで高いレベルのプレーができている。タイトルを取る準備はできている」と語気を強め、フェデラーは「“カムバック”は、もう終わりだ」と言い不敵な笑みをすっと浮かべる。

 1月のメルボルンを覆ったノスタルジーは、3カ月後のマイアミにはもう存在しなかった。
 二人の物語は今、テニス界の頂点をかけ凌ぎを削る純然たるライバルとして、続きのチャプターを瑞々(みずみず)しく紡いでいく。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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