JX−ENEOSが女王たるゆえん Wリーグ9連覇を支えた勝者のメンタル

小永吉陽子

「どこよりも努力している」

体調不良のためファイナルではコンディションが万全ではなかったエース渡嘉敷(左) 【加藤よしお】

 そして、女王とて簡単に勝っているわけではないことをこの場で伝えたい。

 JX−ENEOSの体育館に一歩足を踏み入れると、その光景には圧倒される。先に述べた通り、才能ある選手たちがハードワークをする姿を目の当たりにするからだ。とくに今季、指揮を執ったホーバスHCは一切の妥協を許さず、その練習の濃さが憎らしいほどの強さを生みだしていた。

 スイッチをメインとしたコンビネーションディフェンスを取り入れたのも、次期日本代表HCへの就任が決定しているホーバスHCならではの視点であり、日本が世界に挑むために必要だと捉えているからこそ。もはやこのチームのチャレンジは、日本の外に向けられているのだ。

 選手たちは言う。「良い選手がそろっていたら勝つのは当たり前と周りは思うかもしれない。でも私たちは連覇というプレッシャーを背負った上でどこよりも努力し、その積み重ねの結果が9連覇であり、選手の成長だと思います」と間宮が胸を張れば、渡嘉敷は「周りからは『JX強すぎるよ』と言われますが、自分たちは勝つための練習をしっかりやっているから強いし、この練習をやっているからこそ、日本代表が育つのだと自信を持って言えます」と強調する。ここまで言い切れるメンタリティーは、もはやJX−ENEOSだけのものではなく、日本をけん引する頼もしい財産だといっていいだろう。

キャプテン吉田にあった心境の変化

キャプテン吉田は優勝できた要因を「『もっとうまくなりたい』という気持ち」と語った 【加藤よしお】

 そんな中で、世代交代を乗り越え、9連覇のすべてをけん引してきた吉田の感情は若い世代とは少しばかり違っていた。

「正直に言えば、いつからか優勝し続けることが苦しくてしんどくなり、ファイナル前になると『負けたらどうしよう』と不安になることはあります」と胸の内を吐露する。これだけタレントがそろっていても不安や重圧と戦うのは、何があっても絶対に負けられない女王の宿命だろう。

 だからこそ今季は、ホーバスHCのもと、新しいことに取り組んだシーズンだったのだ。吉田が心境の変化を説明する。

「今まで8連覇する中で、最初に出てくるのは『ホッとした』『負けなくてよかった』という気持ちでした。でもトム(ホーバスHC)に言われたのは『バスケットは楽しいのだから、優勝したらホッとしたではなく、うれしい思いになってほしい』ということでした。バスケットが楽しいという思いがだんだん減っていたことに、私自身が気付かないままやっていたんですね。それがリオ五輪では本当にバスケが楽しくて、そのことに気付かせてくれたトムのもとで『もっとうまくなりたい』という気持ちに変わって取り組めたのが、今シーズン優勝できた要因です」

 ファイナル前に選手たちは、「9連覇は毎年の積み重ねの結果であり、さほど意識していない」と口にしていた。しかし次は違う――。間宮や渡嘉敷は、「10連覇というチャンスはやろうとしてもなかなか訪れないので狙います!」と今から目を輝かせている。女王であり続ける源は常に挑戦する姿勢にあった。JX−ENEOSサンフラワーズは、バスケットボールの楽しさを見いだしながら、来季は10連覇の偉業にチャレンジする。

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著者プロフィール

スポーツライター。『月刊バスケットボール』『HOOP』編集部を経て、2002年よりフリーランスの記者となる。日本代表・トップリーグ・高校生・中学生などオールジャンルにわたってバスケットボールの現場を駆け回り、取材、執筆、本作りまでを手掛ける。

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