世界戦13試合で奪ったダウンは合計30回! データが証明する「神の左」山中慎介の凄み

原功

のべ7人の元世界王者を撃退

「神の左」左ストレートでのべ7人の元世界王者を撃退してきた山中 【赤坂直人/スポーツナビ】

「神の左」というニックネームがあるように、山中が量産しているダウンのほとんどは左ストレートによるものだ。この左に関して山中は「自分なりの特別な距離感があり、それを説明するのは難しい」という。それでも「左拳の人差し指と中指の付け根を相手の急所に当てるため、自然にコークスクリュー(回転のかかったパンチ)になっているみたい」と自己分析している。
 長年コンビを組んでいる大和心トレーナー(元東洋太平洋スーパー・バンタム級王者)は「ミット打ちをしていても山中の左は顔面に来るのかボディにくるのか分からない」と話す。また、何度もスパーリングで拳を交えているジムメートの佐々木洵樹は「山中さんの左は角度が様々でタイミングが読めないうえ、上に来るのか下に来るのかも分からない」と証言する。
 今回のカールソン戦前の公開スパーリングの相手を務めた堀池雄大(帝拳)も「ピンポイントで急所を狙ってくるので気が抜けない。ボディブローも強い」と話していたものだ。カールソンもボディに左を浴びて注意力が下に向けられたあと、顔面に左を浴びてダウンを喫している。

 山中がのべ7人の世界王者経験者と拳を交えている点にも注目したい。力のある相手を退けてきた証左といっていいだろう。米国の老舗専門誌『リング誌』で体重の壁を除外したボクサーの実力評価ランキング、「パウンド・フォー・パウンド」で9位にランクされているのは、単に数字だけでなくV12の実績に加え内容が評価されてのことといえる。また、リズムや戦闘スタイルが異なる北米、中米、南米、アジア、ヨーロッパと幅広い地域の挑戦者を迎え撃ってきた点も特徴として挙げておきたい。対応力という点でも高く評価できる。

“具志堅越え”V13への課題

ディフェンス面の強化も“具志堅越え”のテーマだ 【赤坂直人/スポーツナビ】

 こうした一方、V10戦で2回、V11戦で1回、山中自身がダウンを喫している点は気になるところだ。いずれも先にダウンを奪い、勢い込んで攻めて出た際にパンチを浴びて倒れたもので、ダウンはしなかったものの今回のカールソンでも同様の傾向は見られた。防御と耐久面では課題ありといえる。この点に関して元WBA世界スーパー・フライ級王者の飯田覚士氏は「相手が研究してきていることが大きな理由。山中の力が落ちているとは思わないが、年齢とともに減量がきつくなってくると耐久力も落ちてくる」と一抹の不安を投げかける。
 切り札の左ストレートが不可欠なことはもちろんだが、ディフェンス面の強化も“具志堅越え”のテーマのひとつといえそうだ。

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著者プロフィール

1959年、埼玉県深谷市生まれ。82年にベースボール・マガジン社入社。以来、「ボクシング・マガジン」の編集に携わり、88年から11年間、同誌編集長を務める。01年にフリーランスになり、WOWOW「エキサイトマッチ」の構成などを担当。専門サイト「ボクシングモバイル」の編集長も務めている。

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