サンウルブズ、大敗の中で光った3トライ 「課題をどうポジティブに変えるか」

斉藤健仁

序盤のキックオフで狙いが裏目に

「サンウルブズチアリーダーズ」が会場を盛り上げる中、試合前の練習を見つめるティアティアHC 【築田純】

 それでは、なぜサンウルブズは前半から立て続けに、簡単にトライを許してしまったのか。

 まず、2015年のワールドカップトライ王のWTBジュリアン・サヴェアらがいる相手のBKに、簡単にボールを渡してしまったことが悔やまれる。キックオフからは奧に蹴らずに、前半は3回連続、セブンズのようにボールを競ってマイボールにするため、比較的短いキックを選択したことが裏目に出た。王者に対して果敢に挑んだこともわかるが、もう少し敵陣で戦うことを意識しても良かったのでは。

 サンウルブズは指揮官こそ、コーチだったフィロ・ティアティアが昇格した形となったが、実際には昨年9月から就任したジェイミー・ジョセフ日本代表HC(ヘッドコーチ)の下、昨季までジョセフHCが指導していたハイランダーズのスタイルを指向し、ティアティアHC以外は日本代表のコーチが指導にあたっている。

 アタックの戦術は、日本代表よろしくサンウルブズもFWを広く1−3−3−1(両ライン際に1人、グラウンド中央の左右に3人ずつ)で配置し、両サイドにBKを配置する「ポッド」。サンウルブズは、ハリケーンズの前に出てくるディフェンスに対して、SO田村熙、CTBデレック・カーペンターらのキックで裏を狙う戦略で戦っていた。日本代表同様に、キックをうまく使って、必要以上のコンタクトを避けつつ、80分間、スマートに戦うという中心軸は変わっていなかった。

キックか継続か、相手を見て判断を

15年W杯トライ王の実力を見せつけたWTBジュリアン・サベア 【斉藤健仁】

 序盤は、そのアタックが機能していた時間もあったが、ボールを蹴った後の処理や22mライン内に入った後の攻め方といった部分で後手を踏んだ。また後半、堀江のパスがインターセプトされるなど、FWとBKがリンクする部分もほとんど見られなかった。やはり、まだ18日しか一緒に練習しておらず、昨年11月の日本代表を半数以上の選手が経験していないという成熟度の面でもろさを露呈してしまった。

 キックを多用することは否定しないが、相手のバックスリー(WTBとFBの総称)が強力な場合は、もう少しボールを渡さないように継続を意識し、終盤のように前に出るディフェンスに対してSHからのショートパスや、アングルチェンジを多用しても良かったのかもしれない。まだニュージーランド勢とは4試合残っているため、今後の修正点となろう。

堀江「日本代表につながるのが成功」

スーパーラグビー初出場のWTB中鶴は積極的にボールを持って前進した 【斉藤健仁】

 ディフェンス面も同様だった。ハイランダーズがやっていたように、サンウルブズもベン・ヘリングコーチの下、前に出るプレッシャーディフェンスとターンオーバーからのトライを目指している。この試合は、相手のアタックを1次、2次で止めようと意図して臨んだが、まず、そこで相手に負けてしまい、次のディフェンスがセットできていない状態で中途半端に前に出て、相手のロングパスやオフロードパスでやられるシーンが目立った。

 堀江は「連携がとれていなかった。オフロードパスをつながれたところは(試合中は)修正しようがないというか、個人のところ。(対策はまだ)練習していなかった」、WTB福岡堅樹は「オフロードパスの意識が違った。1対1で前に出られたところは何とかしないといけない。また自分は待って守ろうと声を出したが内側にうまく伝わらず、中途半端な上がり方になってしまった」と肩を落とした。田邉淳コーチは「何で(前に)出ないのかと思った場面もあった。ディフェンスは出るのか待つのかという点はすぐに修正できる」と振り返った。

 今後の課題に関して堀江は、「オフロード(パスの対策)、そしてBKのシェイプ(アタックラインの陣形)やFWとBKのリンクのところ」と言い、「ネガティブな点が多いところを、どうポジティブに変えるか。忘れることは大事ですが、すべてを忘れてはいけない。初めてスーパーラグビーを経験した選手にとってコンタクトの部分は、このシーズンで慣れていくと思いますし、慣れて(日本代表の)テストマッチにつながるのが成功やと思います。とりあえず2勝が目標。ぶらさないでやっていかないといけない」と前を向いた。

カーク主将「ハングリー精神を忘れずに」

次戦からは南アフリカ勢との戦いが始まる 【斉藤健仁】

 ニュージーランド勢と初の対戦だったという点、準備が18日しかなかった点、スーパーラグビー未経験者が多かったことなど、大敗の理由はいくらで挙げられる。だが、スーパーラグビーはまだ開幕したばかり。サンウルブズは3月4日からキングス戦(シンガポール)を皮切りに、南アフリカ勢と4連戦が続いていく。

 キャプテンのFLエドワード・カークが「明日また日が昇ると思っています。最後の20分間はやりたいプレーが実行できた。(来週からの)遠征メンバーはハングリー精神を忘れずに前進してほしい」と言うように、この経験をどうプラスに変えていくか。それが今後のサンウルブズ、そして日本代表の強化、成長につながるはずだ。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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