公立校で花園優勝に挑み続ける御所実 「ラグビーは人間性が出るスポーツ」
花園ベスト8以上で唯一の公立校
黒いジャージの御所実。伝統のモールを武器に、ベスト4に進出した 【斉藤健仁】
特に今年度のチームは身長180cm台の選手が1人と決して大きくはないが、伝統のモールを軸とした試合運びが巧みで、単独チームとして出場した国体では奈良県として32年ぶり2度目の優勝も経験し、3校しかないAシードに選出されていた。
一昨年度の御所実は、現在、帝京大WTBの竹山晃暉らがおり、慶応(神奈川)、国学院久我山(東京)などを破り、決勝に進出したが、東福岡に敗れて3度目の準優勝に終わった。だが昨年度は、花園予選決勝で、全国制覇6度のライバルの天理に5対6で苦杯をなめて出場することもかなわなかった。つまり新チームのスタートは一昨年の11月と他の強豪と比べて早かった。
「ディフェンスを仕上げようと思いました」
1人は下半身に、1人は上半身に入るダブルタックルで、身体能力の高い東福岡に対抗 【斉藤健仁】
フィジカルトレーニングをしつつ、朝、昼、だけでなく授業の間や練習前後などの補食を含めて食事を摂り、体を大きくしながらも、前に出るディフェンス、起き上がるリロードとバッキングアップのはやさは間違いなく高校No.1だった。東福岡にこそ4トライを奪われたが、準々決勝までの失トライは1。相手の姿勢が高ければ、ボールに絡んでモールに持ち込み、停滞させてターンオーバーを狙う。東福岡戦でも4回、モールアンプレアブル(モールが停止した場合、相手ボールのスクラムで再開)を成功させた。
今年度のチームは、主将SO北村将大を筆頭に、一昨年の花園決勝を経験していた5人のメンバーの存在が大きかった。北村はFB岡村晃司とともにゲームを支配。モールだけに固執することなく、空いているスペースがあればしっかり外にパスを回し、相手のディフェンスの前に攻撃が停滞すると、すかさずコーナーへキックしていた。
兵庫出身のSO北村は言う。「自分が持っていくのではなくコントロールしようとしていました。10番だけでなく、2、8、15と中心線の選手とコミュニケーションしながら、左右とエリアのバランスを取っていました。監督と、自分たちの試合だけでなく、トップリーグやスーパーラグビーを見ながら『こういう状況だから、こうしよう』と話すことでイメージが湧いてきました」
奈良県のバックアップで部員増、人工芝グラウンドも
宮崎県から入学した1年生CTBのメイン平 【斉藤健仁】
御所実には全国に4校しかない薬品科学科があり、従来から、この学科のみは全国から受験が可能で、竹田監督が自宅を寮に改造し、県外の選手を受け入れてきた。さらに3年前から、奈良県はスポーツを通じた地域の活性化と特色作りのため、御所実のラグビー部など全国的強豪の4校5つの部活動に対し、各学科の定員の10%を上限としながらも、全国からの受験を可能にした。
現在、半数ほどは県外出身者となった。1年生ながら見事な突破を見せていたCTBメイン平は宮崎県出身。「やるなら強豪校で上を目指したい。あと公立校だったので」と御所実の門を叩いた一人。上記の制度を利用して、環境緑地科に進学してラグビーに精を出す日々だ。さらに昨年は寮が新しくなったこともあり、1年生は41人と大所帯となった。
また昨年5月、グラウンドは県内の公立校としては初めて人工芝となる。総工費は約2億円。雨もほとんど気にせずに練習ができるようになり、ジャージも汚れなくなった。「ケガも減りましたし、練習時間が取れるようになりました。地域のみなさんのおかげ」と副将FL城間賢が言えば、竹田監督も「知事のおかげ」と感謝の言葉を忘れない。