公立校で花園優勝に挑み続ける御所実 「ラグビーは人間性が出るスポーツ」

斉藤健仁

「川の水の流れのように」進む伝統のモール

流れの中でモールを組む「リモール」も威力を発揮した 【斉藤健仁】

 もちろん、準々決勝の石見智翠館(島根)戦で50mを押し切ってトライを挙げたように、伝統のモールは相変わらず強力だ。もともと、ライバル天理の高速ラグビーを封じるために始めたのがきっかけだった。今ではその天理も御所実に対抗するためモールが強くなったが、モールは御所実の原点だ。

「伝統のモールには体の大きさは関係ありません。しっかりとパック(味方の体をつかんで固まること)して相手に頭を入れさせないようにします。川の水の流れのように、ずらしたら一気に進む。ラインアウトからだけでなく、試合の流れの中からのモールも練習してきました」(FL城間) 

 高速BKがそろう石見智翠館に勝利した後は、部長でもあり、専門的に指導している中瀬古祥成コーチが「やっと(モールが)組めました」と破顔した。試合の中でモールを組む「リモール」はPR林大豊など、核になる選手を決めておき、ラックでボールをキープしながら、林らがボールキャリアとなるまで待つ。あえて1度、相手に押させて1ストップ(モール停滞の第1段階)がかかってから、再び押しこむなどバリエーションは豊富だ。

 特に今年度は、モールで崩してディフェンスを寄せてから外や、WTB南昂伸がSHの位置に入り、モールを押した後に、南が決めるというパターンでトライを量産した。

毎週のように強豪校が練習試合のために訪れる

攻め込む北村主将。試合を通して駆け引きを学んだ 【斉藤健仁】

 そんな御所ラグビーは何より竹田監督の人望、熱意が支えている。竹田監督は来る者は拒まず、去る者は追わずといった精神で、毎週のように強豪校が練習試合をしに御所実を訪れることは高校ラグビー界ではよく知られている。

 準々決勝で対戦した石見智翠館、準優勝だった東海大仰星(大阪第1)、京都成章(京都)、春日丘(愛知)、東京(東京)などとの交流が盛ん。また、毎年7月に「御所フェスティバル」を開催し、昨年も30を超える高校が2会場で6日間にわたり、朝から夕方まで20分ずつ試合を行った。練習だけでなく、試合経験を通して選手を鍛えて成長を促している。

「(今年度のチームは初めて準優勝した2008年度のチームに)体が小さいという点では似ていますが、国体で優勝したり、招待試合に出場させてもらったり、いろんなレフリーに教わったこともあって駆け引きや経験値は上。自分らが考えて変えていく。ラグビーは人間性が出るスポーツです」(竹田監督)

1点差の敗戦…「将来につながる1点になる」

竹田監督(左)、二ノ丸コーチ(中)、中瀬古コーチ(右)らがチームを鍛えている 【斉藤健仁】

 一昨年に天理に1点差で敗れてスタートしたチームは、1年前の「裏花園」とも言われるサニックスワールドユースの予選会では、準決勝で慶応に敗れ、春の選抜大会では予選プールで桐蔭学園(神奈川)に引き分けるものの決勝トーナメントに進出することができなかった。それでも着実に力をつけていき、天理を破って花園に出場し、一昨年のリベンジを掲げて挑んだ東福岡にあと1点のところまで迫った。

 しかし、勝てなかった。初優勝まであと2勝、もう少しというところで、手が届かなかった。東福岡が、後半、規律を守り、相手にラインアウトのチャンスを与えず、さらにリモールも封じられたことが大きかった。

 SO北村主将は「今年のチームは1点差で始まって、1点差で終わった。1点差の重みを感じた高校ラグビーでした。でも後輩たちはそれを感じてくれたと思うので、御所ラグビーを継承して、最高の舞台で最高の仲間と優勝にチャレンジしてほしい」と気丈に振る舞った。

 そして竹田監督は「体が小さい公立校なりに最後までやってくれた。将来につながる1点になると期待していますし、下級生が次につなげてくれると思います。また頑張ります」と言って、10回目の花園を後にした。

 高校ラグビー界は、早くも次の花園をにらんで新人戦が始まっている。1点差の重みを改めて感じた御所実が、来年度こそ初めて竹田監督を胴上げすることができるか。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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