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自分の経験を活かしてロンドンに挑みたい
川内優輝が綴る「対世界」への本音(2)
14年のアジア大会で表彰台に上ったとき、日の丸が上っていく光景を見て、もう一度世界陸上で戦いたいと思ったという川内
14年のアジア大会で表彰台に上ったとき、日の丸が上っていく光景を見て、もう一度世界陸上で戦いたいと思ったという川内【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 昨年12月4日に開催された福岡国際マラソンで日本人トップとなる3位に入った川内優輝(埼玉県庁)。この結果で、今夏に開催される世界選手権ロンドン大会の出場権を大きく引き寄せた。

 川内は11年のテグ大会、13年のモスクワ大会に出場しているが、ともに18位とトップ争いに加わることができず振るわなかった。そのため、気温30度を越える「夏マラソン」に対しての限界も感じていたが、今回は再びロンドンでの世界大会に向けて動き出している。


 川内に本音を綴ってもらった手記の第2回は、世界陸上への思いを語ってもらった。

日の丸が上るのを見て「ロンドンでもう一度戦いたい」

(世界陸上への思いは)13年のモスクワ世界陸上で11年のテグ世界陸上と同じ18位という順位でしかゴールできなかった時に、「暑い夏の世界大会では本来の自分の走りができない。日本代表として週刊誌やテレビに毎週のように追いかけ続けられ、自宅や職場にも何度も張り込まれて待ち伏せされるような状況に加えて、周囲の期待に応えて、苦手な暑い環境下で戦い続けることは精神的にもう限界かな。けれども、自分自身の記録にはまだ限界を感じていないし、世界中の大会から招待されるチャンスのある自己記録を持っているのだから、これからは、そうしたプレッシャーもなく自分の走りに集中できる世界中の大会で戦うことを目指していこう」と思いました。


 一方で、「暑さ克服のために帽子やスペシャルドリンクに工夫を重ねてきたから、テグの時よりも暑さを感じなかった。30度を超えてくると苦しいけれど、30度を超えてこなければ何とかなるのではないか」という思いもありました。このように考えていたので、14年のアジア大会は秋開催ということもあり、金メダルを狙える状況にもあったのでもう一度日本代表として戦う覚悟を決めました。結果的には30キロ付近で先頭集団から一度脱落してしまった影響もあり、トラック勝負で敗れてしまい銅メダルでした。


 けれども、表彰式で日の丸が国旗掲揚台に上がっていく光景を見て、テグ世界陸上の団体銀メダルの表彰式の時に感じた「アスリートはこの一瞬の為に頑張っているのだ」という気持ちを思い出し、「最後にもう一度、ロンドン世界陸上で過去の失敗を活かして悔いのない戦いをしたい」と思いました。


 実は、猛暑が予想されていた15年の北京世界陸上に対してはまったくモチベーションが上がりませんでしたが、17年のロンドン世界陸上に対しては、12年のロンドン五輪を逃したこともあり、何か縁のようなものを感じていました。ロンドン五輪のテレビ中継を見ていた時も「このコンディションの中で走ってみたかった」と正直思っていました。

「目標」が明確になれば「努力」も重ねられる

 逆にロンドンの次の19年の世界陸上はドーハ、そして20年の五輪は東京ということもあり、それらの世界大会に対しては他の選手と違って、北京世界陸上と同様にまったくモチベーションが上がりませんでした。「暑さを克服して東京五輪まで頑張ればいい」と言ってくださる方は大勢います。私が世界記録と2分差以内の自己記録を持っていれば「五輪や世界陸上のために暑さを克服しよう」という気持ちにもなったと思います。しかし、世界記録と5分以上の差がある状況では暑さを克服するための努力をしている余裕はないと思います。記録的な差を少しでも埋めるために実力を上げるのはもちろんのこと、それ以上に大切な「レース中盤からのペース変化に対応する能力」を磨いていく必要もあるからです。


 このように、いくつも克服しなければならない課題がある中で、記録や勝負強さと違って、時間をかけても克服できるかどうかも分からない暑さ対策だけに努力を特化していくことはできないと思いました。仮に何年もかけて暑さを克服した結果、それ以外のあらゆる力が落ちてしまったら、秋から春の選考レースで勝つことはできないので、夏の世界大会のスタートラインに立つこともできません。そうなると現在のような秋から春のさまざまな海外マラソンに挑戦する権利(記録)も失う可能性も高いと思います。体質改善と引き換えにすべてを失うことが自分の望むマラソン人生なのかと考えると、「他のすべてを失ってでも30度を超える暑さに強い選手になりたい」とは思えませんでした。


 けれども、ロンドン世界陸上の23度から26度くらいの涼しい気候であればテグ、モスクワの2回の世界陸上で帽子や給水などの暑さ対策や夏場のレースへの調整方法がつかめてきていますので、ドーハや東京と違って、今までの「強くなるための練習」の延長線上に自分が世界と戦う姿を想像することができます。自分が戦う姿を想像できる限りは、その姿は「目標」となり、「目標」があれば、具体的な計画を組み立てて目標を達成するための「努力」をすることができます。結果的にどうなろうとも、少なくとも日本代表としての自覚と責任を持って、自分自身が活躍する姿を想像してスタートラインに立つのが「マラソン日本代表」だと思います。そうした意味でロンドン世界陸上にはこれまでの日本代表経験と海外マラソン経験のすべてを活かして挑みたいと思っています。

構成:スポーツナビ