福岡国際は「奇跡」が続いた結果だった 川内優輝が綴る「対世界」への本音(1)

構成:スポーツナビ

福岡国際マラソンで世界陸上を大きく引き寄せた川内優輝。その胸のうちを手記で綴ってもらった 【写真は共同】

 昨年12月4日に開催された福岡国際マラソン。練習中のケガを押しながらもレースに参加した川内優輝(埼玉県庁)。レースは雨も落ちる不安定な天候の中だったが、川内は序盤から招待外国人選手に混ざり、トップ集団に食い込む。他の日本人選手が集団から遅れていく中、最後まで粘りきって、日本人トップとなる2時間9分11秒で3位となり、今夏に開催される世界選手権ロンドン大会の出場権を大きく引き寄せた。

 今回はその川内に、福岡国際の振り返り、世界大会への思い、そして日本長距離界の現状に対する手記を綴ってもらった。その言葉を全3回に渡って紹介する。

 第1回は激走となった福岡国際マラソンを振り返ってもらう。

3週間前に右ふくらはぎをケガ ギリギリの状況での毎日

(福岡国際マラソンに関しては)3週間前の距離走の途中で右のふくらはぎを故障してしまい、ペースを上げるとふくらはぎが千切れるような痛みが出る上に、歩くだけでズキズキするような状況になってしまいました。そのため、本来の調整練習ができずに大会前の3週間は不安で一杯で、本当にイライラしていました。さらに、家族全員を含む周囲からは「最後の日本代表挑戦なのだから、変な意地は捨てて、福岡国際は欠場して、東京かびわ湖で勝負した方がいい」と毎日毎日言われ続けました。

 一方で、「福岡国際は応援に行くから頑張ってね」と励まされたりもして、精神的におかしくなりそうなギリギリの状況で毎日を過ごしていました。ケガをしてから2日間の完休を入れたものの、それ以降は「とにかく体力だけは落としてはならない」と思い、痛みが悪化しないように普段よりもペースを落としながらもジョグの距離だけは維持していました。

 そうした状況でしたので、大会2週間前の上尾シティハーフマラソン(11月20日)はまともに走れるような状態になく、無理をすると痛みが悪化する感覚もあったので、事前に大会事務局の許可を得た上で、最後尾からのジョギングとさせて頂きました。こうして、無理にペースを上げるような練習を1週間やらなかったことで、違和感はあるものの痛みがなくなってきました。

レース前に左足首も捻挫 最後は神頼みも

 そのため、大会2週間前からは付け焼刃のように自分の直観に従って、頭で「やった方がいい」とひらめいた練習を次々に入れていくことで練習量を大幅に増やしました。結果として、50キロジョグを週に2回入れるなどして1週間に約220キロの走り込みをしました。普段は約140キロしか走っていませんので、長い距離を中心に走りこみをしたことで自信と体力が徐々に回復していきました。

 しかし、依然として上尾シティハーフマラソンをいつものように走れなかったことでスピード持久力に対する不安は消えず、福岡に出場すべきかどうか悩む状況は変わりませんでした。そのため、「大会1週間前に第2集団のペースである3分4秒前後で20キロを走ることができたら、予定通り福岡に出場しよう」と最終的に決意し、レースのように起床時間や朝食からしっかり調整した上で、知人の協力を得て、埼玉県の彩湖で20キロ走を行いました。その結果、ギリギリの状態ではありましたが1時間1分14秒(3分3秒/キロ)で走りきることができ、第2集団のペースでは行ける目途が立ち、出場を決意しました。

 しかし、悪い時には悪いことが重なるもので、福岡入り後の金曜日の記者会見後の調整練習中に、今度は左足首を段差で捻挫するアクシデントに見舞われ、歩くだけで痛みが出るような状況に戻ってしまいました。そのため、レース前夜には大会事務局に駆け込み「ドーピング違反にならない痛み止めを下さい」と泣きつくような精神状態で、ホテルで氷をもらって、何時間もひたすら左足首をアイシングしていました。「ふくらはぎの痛みも治まってきて、ようやく戦える状態まで持ってこれたのに、何でこんなことになるのだろう」とアイシングをしながらも悔しさと捻挫をした自分自身のバカさ加減に対して涙が出てきました。

 こうしたどうしようもない状況で、「神でも仏でもなんでもいいから、とにかく明日のレースだけは痛みが悪化しないようにしてください。足首の痛みさえ悪化しなければ、他の苦しさは耐えますから」と神頼み(仏頼み?)さえもしていました。

 このような絶望的な状況でスタートラインに立ちましたが、さまざまな幸運が重なって結果的には2時間9分台のタイムで表彰台に上ることができました。こうした経緯から、ゴールした後は本当に「奇跡」が起こったとしか思えませんでした。

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