交通渋滞を越えてアストラエンブレム 「競馬巴投げ!第136回」1万円馬券勝負

乗峯栄一

女性に悪態をつく有馬惨敗おじさん

[写真1]エアスピネル 【写真:乗峯栄一】

 明けましておめでとうございます。

 結局、有馬もわが予想通りにはどの馬も走ってくれず、深く反省して、反省はするものの、年が変われば転機というものは必ず来る。スタイルを変えずにいかねばならない。

 有馬の帰りは25日の晩であり、東京駅を出発する新幹線は、昔は“シンデレラ・エクスプレス”などと呼ばれ、クリスマスを恋人と過ごした女性が彼を見送って涙を流したりする。

「へへーん、お前のことなんかすぐに忘れるよーだ」と有馬惨敗のおじさんはホームに立ちつくす女性に悪態ついて、憂さを晴らそうとする。

「いや、しかし」とすぐに反省も起こる。女の涙ほど信用できないものはない。涙を流した女がすぐに「ごめんなさい、好きな人が出来たの」とケロリとして言うのを何度も見てきた。ホームで涙する女を見て「よし、この女のために頑張ろう。すぐに迎えに来るからな」と騙されるのは、だいたい男の方だ。

それからミジンコのことを思う

[写真2]ダンツプリウス 【写真:乗峯栄一】

 それから缶ビール一本飲み、新幹線の暗い窓を見ながらミジンコのことを思う。ミジンコは甲殻類というからカニやエビの仲間だが、極めて小さく、自力では移動できないからプランクトンの一種ということになる。海のオキアミ、淡水のミジンコは魚たちの最も大切なエサである。しかしオキアミやミジンコはいくら魚に食べられても決して絶えることはない。それぞれ特別な繁殖能力を持つからだ。

 特にミジンコの生殖は興味深い。普段ミジンコにはメスしかおらず、クローン(母親と同じ遺伝子をもつ子供)を増やして集団を作る。単細胞生物ではないから細胞分裂ではなく、メスの体内にある卵が精子なしで勝手に卵割して、母親と同じ生体まで成長する。

 しかしクローンばかりの集団というのは、共通の弱点を持つ訳だから、渇水とか、寒さとか、何かのアクシデントで全滅してしまう可能性がある。たとえばブエナビスタがどんなに優秀でも、繁殖牝馬が全部ブエナビスタになったら全滅の危機をはらむようなものだ。

 そこでミジンコは冬が近づくと、どこがどう変わるのかよく分からないが、オスも生むようになる。淡水の中にオスとメスが両方いて、今度は精子を伴った卵割(有性生殖)を行い、色んな遺伝子のミジンコができ、冬の厳しさの中でも全滅することはなくなる。

 そして春になると、またメスは自分だけでメスばかり生むようになり、オスはそのうち死滅するから、またメスだらけ、単一遺伝子のミジンコばかりになる。

 結局、オスというのは、危機的状況に備え、単一遺伝子にならないために用意された針の一差しに過ぎない。

 しかしミジンコは危機的状況に備え、冬になると遺伝子の多様化を図る。これではないか、ぼくに足りないのは。春になっても、冬になっても、まったくいつも同じ予想をしている。遺伝子の多様化が図れていない。でも遺伝子の多様化ってどうやってやるんだ? あっちこっちで有性生殖するにやぶさかではないが、相手が嫌がるではないか。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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