さらなるタイトル獲得に貪欲なJ1王者 天皇杯漫遊記2016 横浜FM対鹿島

宇都宮徹壱

「歴史的」な関西での決勝の行方は……

劣勢から先制ゴールを挙げた土居。試合後のコメントから「世界2位」の自信が感じられた 【宇都宮徹壱】

「やばいところはありましたよ。(相手のシュートが)ポストに当たったシーンもありましたし。でも慌てる感じは、チームも僕もなかったですね」(昌子源)

「乗っているチームというのは、危ない場面であっても失点しないんですね。こういうチームが優勝するんだろうなという実感はあります」(鈴木)

「これからも『世界2位』という看板はつきまとうので、変な負け方はできない。でも、プレッシャーは感じていないですね」(土居)

 試合後のミックスゾーン。自信に溢れた鹿島の選手たちのコメントを聞きながら、今年のJ1チャンピオンの貪欲さを再確認する。実のところ、この準決勝は鹿島が苦戦すると予想していた。その理由は、前回大会のサンフレッチェ広島の記憶があったからだ。昨年の広島は、CS直後に臨んだクラブW杯で3位に輝いたものの、大会後の天皇杯では精彩を欠いたプレーが目立った。しかしファンやサポーターは(少なくとも私の周りでは)、決して選手たちを責めることはなく、むしろ過酷な日程に対して同情的ですらあったと記憶する。それでも広島は元日の決勝を目指したが、準決勝でガンバ大阪に0−3で敗れ、激動のシーズンを終えることとなった。

 しかし今年のJ1チャンピオンは、クラブW杯のみならず天皇杯でも決勝に到達した。そして選手たちは(そして、おそらくはサポーターも)、通算19個目のタイトルに対してとことん貪欲である。さらに驚かされるのが、チームに疲弊というものがほとんど感じられないことだ。この日は前半35分まで横浜FMにペースを握られていたが、石井監督は「体力的なものではなく、相手の攻撃の形に対してうまくはまらなかったから」として、コンディション的にはまったく問題がなかったとしている。その後の試合展開を見れば、指揮官が強がりを言っているようにも思えない。

 そんな鹿島の決勝の相手は、1−0で大宮に競り勝った川崎に決まった。前身の富士通時代を含めて、川崎はこれが初の決勝進出。迎え撃つ鹿島にとって、川崎は11月23日に行われたCS準決勝の対戦相手であり、この時の勝利が今回の快進撃の起点となった。それから1カ月と6日。年間3位から見事にJ1を制し、レアル・マドリーと「クラブ世界一」の座を懸けて死闘を演じ、そして今度は6年ぶりの天皇杯優勝と9年ぶりの2冠まで、あと1勝となった。そこで再び対戦する川崎もまた、悲願の初タイトルに向けて意欲十分。関東勢同士のカードとはなったものの、どちらが勝っても「歴史的」という意味で、52年ぶりの関西での天皇杯決勝は大いに盛り上がることになりそうだ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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