浅野拓磨、ドイツでも変わらぬ信念 「ゴールを逃した場面は絶対に忘れない」
浅野にとって、細貝は大きな存在
浅野にとって、細貝(中央)はとても大きな存在になっている 【写真:アフロ】
「拓磨の住居とウチの家はすぐ近くだから、頻繁に連絡は取り合っている。ウチは奥さんと子供がいるから、たまに拓磨を夕食に誘ったりもしているよ。ウチの娘は生後6カ月なんだけれど、拓磨のことが好きみたいで、彼が来るとキャッキャと笑ってる。拓磨は7人兄弟の大家族の下で育ったから、子供との触れ合いに慣れてるみたい。家に来た時は娘をずっと抱っこしてあやしてるもん(笑)。まあ、こういう環境の中で、拓磨も落ち着いてプレーできればいいよね。
今思うと、(原口)元気も初めての海外でのプレーでベルリンに来て、その時にチームメートだった俺としばらく一緒に過ごしたんだよね。若手の世話役? そう思ってもらっても良いよ(笑)。こっちは特に負担もないし、その影響で選手がプレーに集中して良いパフォーマンスを発揮できたら、チームメートとしてもうれしいからね」
当の浅野も先輩を心から慕っている。
「ハジくん(細貝)は本当に僕のことを気にかけてくれて、助かることばかりです。もちろん頼り切ってはいけないんですけども、ハジくんのおかげで、僕もここで穏やかに生活することができています。ハジくんはドイツ語も堪能で、本当にすごいですよね。心から尊敬しています」
ピッチの上では「絶対に譲れない」
浅野はゴールを逃したシーンを「絶対に忘れない」と語る 【Getty Images】
味方から前方のスペースへボールが出た。瞬時にトップスピードへ達し、ほぼ同時にスタートした敵を数メートル引き離してパスレシーブする。馬車馬のような太腿で疾駆し、相手に絶望感を与えてもなお、彼のランニング速度は増していく。ブンデスリーガ2部でプレーして、はや3カ月。スピードに関しては相手と伍して戦える自信が付いた。フィジカル勝負も問題ない。190センチを越す大型DFでも萎縮なんてしない。むしろ大柄な選手はアジリティーに難を抱えているだろうから、その弱点を突いて抜き去ってやる。紅蓮の炎を燃やしてピッチに立つ彼の所作は、正真正銘のプロサッカー選手の姿を映し出している。
だからこそ、浅野は現状に納得がいかない。自らのゴール数が少なすぎる。半ば怒気を含んだ吐露の対象は、全て己へと向けられている。
ブンデスリーガ2部第16節・ハノーファー戦。浅野は12分にテローデのゴールをアシストして先制に寄与した。しかし、これは彼がトラップミスして流れたボールが運良く相手DFやGKの虚を突いた、運に恵まれた得点だった。その後チームは突如バランスを失って守勢に周り、26分に同点ゴールを決められて試合を振り出しに戻された。
30分、右サイドを突破したマネが中央へ折り返すと、ボールを受けた浅野がアプローチしてくるDFを切り返しでかわして右足シュートを放つ。しかしボールは無情にもバーの上を通過して貴重なゴールチャンスを逸した。その後シュツットガルトは87分に痛恨の失点を許してハノーファーに逆転負けし、リーガ2部の首位の座からも転落した。
「あぁ、本当に悔しいです。なんであの時、シュートを吹かしてしまったのか。考えれば考えるほど、自分がふがいない」
苦々しい表情で、絞り出すように言葉を紡ぐ。そこで彼に聞いてみた。その悔恨はいつまで携えるのかと。
「ずっとです。ずっと。いつまでも。僕は自分がミスしたり、ゴールを逃したりしたシーンを絶対に忘れない。それで、いつか必ず、この悔しさを晴らすと心に決めている。悔しさを溜めて溜めて、その思いを次のチャンスに生かす。僕はいつも、そんな思いを携えてプレーしているんです」
16年6月7日。市立吹田サッカースタジアムでのキリンカップ、日本代表vsボスニア・ヘルツェゴビナ代表で絶好機を迎えながらパスを選択してチャンスを逃し、チームは1−2で敗戦。試合後の彼は人目もはばからずに号泣した。16年9月1日。埼玉スタジアム2002でのロシア・ワールドカップ・アジア最終予選、日本代表vs.UAE代表では本田圭佑のパスを受けてボレーシュートを放ち、ボールはゴールラインを割ったがノーゴールと判定された。だが彼は誤審と思われるジャッジにではなく、確実にボールをミートできなかった自らの技術不足を嘆いた。
「今日のシーンも、代表でのシーンも、僕は絶対に忘れない」
悔しい気持ちを決して忘れない
悔しい気持ちを力に変えて、浅野はシュツットガルトで戦い続ける 【島崎英純】
ウインターブレイク前の最終ゲーム、第17節・ヴュルツブルク戦はアウェーの地で完敗した。3失点無得点の惨状に、チームは焦燥の色を隠せない。
か細く響く浅野の言葉に慚愧(ざんき)の念がにじむ。
「悔しい。悔しいですね」
黄昏の街に、間もなく漆黒の夜がやってくる。人々は安息の家路へと急ぐ。暖色の光を放つ街灯が冬の夜空を彩っている。星空の下で石畳が敷かれた街路樹の歩道を一歩ずつ、地面の感触を確かめながら歩いていく。この道は、必ず輝ける明日へとつながっていると信じている。
明日は晴れらしい。青空に昇る太陽はどれだけ眩しいのだろう。まだ踏み出したばかりの旅の途上で、22歳の青年がつまずきながら、転びながら、それでも上を向いて、着実に一歩ずつ、辛苦をかみ締めながら前進する。
その瞳に、揺るぎない魂を宿しながら。