欧州強豪を追い詰めたラグビー日本代表 「日本人の良さが出ている」戦い方

斉藤健仁

FW、BK一体となった見事なトライ

新生日本代表の魅力が存分に発揮されたWTB福岡のトライ 【斉藤健仁】

 アタックでもディフェンスでも自分たちから仕掛けて、1点差で前半を折り返した。だが、後半早々、キックオフをミスし、反則からPGを決められる。さらにラインアウトからのアタックでは、アルゼンチン戦よろしく、ラックの横の2人目のディフェンスが立てず、その隙を狙われて相手キャプテンのFLサム・ウォーバートンにトライを許し、12分までに13対24とリードを広げられてしまった。

 だが、14分、この試合で一番のトライが生まれる。キックオフからのボールを日本代表がターンオーバーし、ボールを継続。FWを「1−3−3−1」で配置する4ポッド(4つのユニット。ポッドはもともとラインアウト用語で魚の群れという意味が語源)でテンポ良く攻撃。最後は、ジョージア戦同様、HO堀江翔太を経由することで相手の出足を止めて、素早くクイックハンズでHO堀江、SO田村、CTBティモシー・ラファエレ、FLマルジーン・イラウアとつないで、最後はWTB福岡堅樹が左隅にトライを挙げて20対24と再び4点差に追い上げた。

 ミッドフィールドの「相撲」と呼ばれるFWの6人がスペースを作り出し、ブラウンコーチがBK陣に対して毎回練習を課している素早いボール捌きを試合で見せることができたのは収穫になったはずだ。

終盤にアンストラクチャーからの攻撃で追いつく

後半33分に同点につながるトライを奪ったWTBロトアヘア 【斉藤健仁】

 互いにPGを決め合って23対30で迎えた33分、日本代表が練習していた形を、大舞台でしっかりと出す。FB松島が相手のボールをインターセプトし攻め上がる。すぐにSH田中が右サイドに展開。サイドライン際に、日本代表で最も突破力のあるNo.8アマナキ・レレィ・マフィが立っていた。

 マフィはライン際でゲインし、相手のタックルを受けながらも花園大の同級生だった、途中出場のWTBアマナキ・ロトアヘアにパス。トップリーグで大活躍しているロトアヘアは相手をステップでかわしてインゴールにボールを運び、30対30の同点に追いついた。

 10月11日、ジェイミージャパン初練習で、ブラウンコーチの下、最初に行った練習がアンストラクチャーからのアタックであり、新生日本代表ではエディージャパンが4年目になってやっと取り組みだした「アンストラクチャーから、しっかり組織的にアタックする」ラグビーも、最初から武器の一つに掲げていたのだ。

惜敗も世界のラグビーファンにインパクトを与える

カウンター、ライン参加で突破力の高さを見せつけたFB松島 【斉藤健仁】

 同点で迎えた後半終了間際、日本代表のメンバーを見ると、昨年のW杯組は5人という状況だった。それでも途中出場のルーキーFL松橋周平が見事に相手ボールをターンオーバーし、攻め込んだ。このままボールをキープすれば……と思った矢先、再び相手にボールを奪取されて攻め込まれると、残り10秒でDGを決められて30対33と敗戦してしまった。

 昨年に続く金星を挙げることができなかったことは非常に残念だが、ジェイミージャパンが「ラグビーの都」とも言われる目が肥えたカーディフの大観衆、そして世界のラグビーファンに大きなインパクトを与えたことは間違いない。

田中「可能性がすごく上がった」

惜しくも敗れたが、ジェイミージャパンにとって自信をつかんだ試合となった 【斉藤健仁】

 ジェイミージャパンの中核の一人である田中は「(日本代表の)可能性がすごく上がった。進歩したと思います。この一週間、戦術を理解して要所ではいいプレーができた。だが(大事な場面で)気が抜けたり、ペナルティーしたりしたのでこういった結果になったが、もっと規律を守ることができればいいチームになる」、共同キャプテンの一人である堀江は「自分たちの戦術、戦略を信頼したし、素晴らしいものだし、日本人の良さが出ている。短期間でもここまでできるというのは理解力が高いということだし、もっともっと細かいことを詰めていければさらにもっといいものができあがるんじゃないかと思っています」と、国際経験豊富な2人とも手応えを口にした。

 そしてジョセフHCは「新しいジャパンは(スローガンでもある)『ONE TEAM』となっていいスタートを切れた。当初は、代表辞退選手が多くて残念でしたが、それを払拭できるような新しいチームが作れたと思います」と、ここまでの3試合を振り返った。

 勝てなかったものの、このウェールズ戦は、2019年W杯を目指して戦うジェイミージャパンにとって大きな自信、そしてターニングポイントになったに違いない。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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