3勝1敗の侍ジャパンに残った消化不良感 世界一奪還への疑問が解消されず…

中島大輔

WBC公式球に対応できる投手の選出

2試合、打者5人を完璧に抑えた変則左腕の宮西は国際試合の中継ぎ向きであることを証明した 【写真は共同】

 だが、球界が組織として取り組んでいない以上、WBC公式球に対応できる投手を選ぶしかない。それがメジャーリーガーであり、今回の強化試合2戦目に投げた増井浩俊(日本ハム)だ。第二先発候補の右腕は、こう話した。

「最初は違和感がありましたけど、毎日投げているうちに気にならなくなったという感じですね。普段通りに行かない部分もあると思いますけど、そういうのを言い訳にしたくない。気にしたほうが負けだと思うので、すべて気にしないようにと思っています」

 国際試合では対戦相手、ボール、マウンドの硬さ、ストライクゾーンなど、すべてが普段と異なる。その違いを受け止めた上で、自分の持ち味を発揮できる選手が、結果を残すことができる。あるいは、違いを超越するような技術を持っていればいい。その1人が、打者のタイミングを外すことで打ち取れる宮西だ。

「(フォームが)変則でもありますから、しっかりタイミングは外せているんだなとこの2試合で感じました。(短い準備期間で)よく投げられているとも思いますけど、本戦になったら適応が大事になってくると思うので、もっと丁寧にコントロールしたいです」

 来年のWBCの候補でもある牧田和久(埼玉西武)のように、仮に制球を間違っても、タイミングをずらして打ち取れる投手は国際試合に強い。特にリリーフ陣は、そういう選考をするのも一手だろう。

タイブレークを経験できたことは貴重

第4戦で決勝の満塁本塁打を放った鈴木。小久保監督が打線のポイントとしていた筒香の後を十分に任せられそうだ 【写真は共同】

 先送りされた3つ目の課題が、小久保監督の手腕だ。昨年行われたプレミア12の準決勝・韓国戦では継投ミスが響き、屈辱の敗戦を喫した。小久保監督が実戦で采配を振る機会は限られており、今回の強化試合でどんな手を打つのか注目したが、勝負手を仕掛ける場面は少なかった。今回は選手のコンディションを考慮しなければならず、思い切った采配をしにくかったことは否めない。

 ただ、普段のシーズン中は実戦の場に立たない小久保監督にとって、この4試合は貴重な機会だったはずだ。監督として今回、実戦経験を積める場にどんな意識で臨んだかと聞くと、こんな答えが返ってきた。

「昨日(12日)のタイブレークは初めての経験だったので、考えているようでなかなか全部が見えていなかったです。今日(13日)は8回くらいからタイブレーク用に、打線がどこで終わればどういうふうにできるなというのがありました。1試合すると違うんだなと、私自身が感じました。あとは本番になったときに、普段チームではおそらく進塁打が出ない選手に対してもそういうサインが出る可能性があると伝えていますので、本番ではそうなると思います」

 11日のメキシコ戦では3対3の同点で迎えた5回、先頭打者の大谷が内野安打で出塁して二盗を決めた直後、内川がファーストゴロを打って大谷を三塁に進めた。日本はこの回に2点を奪い、試合をモノにしている。こうした打撃をできることは、確かに日本の強みである。

 また今回の4試合を通じ、指揮官の探してきたピースが見つかった部分もある。小久保監督が打線のポイントとしていた1番と「筒香嘉智(DeNA)の後」は、1番は秋山翔吾(西武)か坂本勇人(巨人)、6番は坂本か鈴木誠也(広島)に任せられそうだ。プレミア12で見当たらなかった中継ぎのスペシャリストでは、右の秋吉亮(東京ヤクルト)、左では宮西がメンバーに入ってくるだろう。

世界一奪還へ球界全体のサポート必要

タイブレークなど貴重な実戦経験を積めた小久保監督。来年WBCへつなげることができるかは球界全体のサポートが必要になってくるのは間違いない 【写真は共同】

 だが、投手陣の骨格は固まっていない。先発と第二先発の8人、そしてクローザーが誰になるのか、見えてこないのだ。さらに小久保監督が指揮官として「世界一奪還」を目指すにふさわしいのか、疑問が解消されないまま本番に臨むことになる。

 こうした状況で2大会ぶりの優勝を狙うのであれば、球界全体で侍ジャパンをサポートするしかない。それは大谷の二刀流を実現させろという意味ではなく、選手たちの将来を見据えての選出、起用を前提とした上で、12球団が最大限に協力すべきだ。強化試合とWBC本番では変わってくる事情もあるだろうが、現状、侍ジャパンは寄せ集めの集団にしか見えない。

 チームを率いた経験がなかった小久保監督を日本代表のトップに据えておきながら、最も大切な本番に向けていろいろ試すはずだった今回の強化試合では、そもそも指揮官の望むような人選ができなかった。仮にWBCで優勝できなかったとしても、小久保監督を責められないような体制だ。

 侍ジャパンが本番までにできることは、もはや限られている。人選と本番に向けた直前合宿で、球界全体として少しでも悔いを残さないようにするしかない。そうせずに本番で惨敗を喫するようなら、日本代表=侍ジャパンの存在意義から問われることになる。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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