敗戦の若きオランダ代表に送られた拍手 “ビッグ4”を欠くも、手ごたえを得る

中田徹

“ニュー・リアリズム”と呼べる今予選のオランダ

ブリント(写真)率いる今W杯予選のオランダ代表は“ニュー・リアリズム”と呼べるもの 【写真:ロイター/アフロ】

 ダニー・ブリントの率いる今W杯予選のオランダ代表も“ニュー・リアリズム”と呼べるものだ。コンパクトになった“4−3−3”に、オランダ特有の“陣形の間延び”はもうない。SBカルスドルプとウィング(WG)のクインシー・プロメスがいる右サイドが相手を崩し、SBのデイリー・ブリントと偽のWGウェスレイ・スナイデルのいる左サイドは攻め急ぎを避けるなど、ゲームメークやバランスに力を注いでいる。その戦術は10番タイプのMFイェンス・トールンストラ(フランス戦前にオランダ代表に選出された)を偽のWGに置くフェイエノールトのジョバンニ・ファン・ブロンクホルスト監督の戦術に似ている。

 ベラルーシ戦の前半いっぱいでスナイデルが負傷退場したことで、フランス戦のオランダは、よりリアリズムを追求する陣形になった。ベラルーシ戦後半のオランダは中盤にダビ・プロパー、ジョルジニオ・ワイナルドゥム、ストロートマン、左の偽WGにダビ・クラーセンと、デュエル(球際の競り合い)、走力、カバーリング能力、相手DF陣の裏抜けに優れた選手がそろったのだ。後半開始早々に1点を返され肝を冷やしたものの、すぐに2点を奪ってベラルーシを突き放すことができ、平均年齢24歳代の若きイレブンは自信をつけただろう。

 ベラルーシ戦後、『アルヘメーン・ダッハブラット』のマールテン・ワイフェルス記者が「オランダの中盤はユーロ予選の時よりダイナミックになったのではないか?」と記者会見で質問すると、ブリント監督は「クラーセン、ワイナルドゥムは確かにダイナミックなMF。ストロートマンは2枚のセンターバックの前でブロックを作っているけれど、しっかり前に出てボールを狩りにいける選手。確かに、以前よりオランダのMFはダイナミックになっている」と答えていた。

 3日後のフランス戦では、ベラルーシ戦の後半と同じメンバーで試合に入ったが、ベラルーシ相手に2ゴールと絶好調だった右WGプロメスが16分に打撲で負傷退場するアクシデントに見舞われる。メンフィスが左WGに入ったことで、偽のウイング、クラーセンが左から右に移ってカルスドルプにスペースマーキングする戦術を採ったが、カルスドルプは後半、特によくその仕事をこなした。こうして彼は少なくともオランダメディアからは絶賛されることになったのだ。

プレーオフを経由してロシアへ

フランス戦はロッベン(右)ら“ビッグ4”のいない久しぶりの試合になった 【写真:ロイター/アフロ】

 オランダにとってフランス戦は“ビッグ4”(アリエン・ロッベン、スナイデル、ロビン・ファン・ペルシ、ラファエル・ファン・デル・ファールト)のいない久しぶりの試合になった。『フットボール・インターナショナル』のウェブ版によれば、最後に“ビッグ4”を欠いたのは、2002年10月16日のオーストリア戦まで遡るのだという。実に14年前の出来事だ。以来、彼らはユーロ08グループリーグでのセンセーション、10年、16年W杯の躍進などに関わってきた。

 ロッベンに関して言えば、ベラルーシ戦の直前までブリント監督は本人とコンタクトを取り続け、招集する意向を持ち続けていたが、結局、肋骨の負傷が癒えず呼ぶのを見送った経緯がある。スナイデルは“ピッチの上の監督”という任務を持っている。「ロッベンのような、相手との違いを作れる選手がいれば……」(フランス戦直後のテレビ解説者ユーリ・ムルダー)という声もある。この2人が今後もブリンド率いる“オランイェ”(オランダ代表)に関わり続けるのは間違いないだろう。

 それでも“ビッグ4”を欠いたオランダはベラルーシ戦後半、フランス戦と良いフィーリングをつかんだ。『アルヘメーン・ダッハブラット』のワイフェルス記者は紙上で「(準備合宿も含めた)この8日間、失ったものより得たものの方が大きかった」と言う。

 グループAの首位となって、ストレートインでW杯へ行くのはもう難しい。しかし、2位になってプレーオフを経由してロシアへ行く可能性は大いにある――そう、多くのオランダ人は信じている。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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