W杯予選を控え、人事で揺れるオランダ 去るV・バステン、交渉決裂のフリット

中田徹

盛り上がることのなかったユーロ期間中のオランダ

大事なW杯欧州予選を前に、オランダ代表が人事問題で揺れている 【写真:ロイター/アフロ】

 24カ国に拡大されたことで、ヨーロッパの多くの国がユーロ(欧州選手権)とともに笑い、そして泣くドラマティックな1カ月を過ごしたが、まさかの予選敗退を喫したオランダはその輪に加わることができなかった。大会期間中のアムステルダムの町はユーロに盛り上がることはなく、本当に静かなものだった。あの寂しさは忘れられない。ワールドカップ(W杯)・ロシア大会予選はオランダにとってリベンジの舞台である。

 しかし、代表チームがいったん失った信頼は、そう簡単に回復できるものではない。大事なW杯欧州予選の初戦、スウェーデンとのアウェーマッチを5日後に控え、オランダは1日にアイントホーフェンでギリシャと親善試合を戦ったが、3万5000人収容のフィリップス・スタディオンはわずか2万2000人しか埋まらなかった。メーンスタンド2階の南側は開放されず、無人で寒々としていた。

 リオデジャネイロ五輪のオランダは“チームNL(Nederland=オランダ)”として戦い、メダルを獲得しては喜び、有望選手が負けては悔しがり、女子バレーや女子ホッケーでは1点の攻防に固唾(かたず)をのんだ。共に笑い、共に泣く――代表チームを応援する醍醐味(だいごみ)。代表チームへの国民のシンパシー。それをサッカーのオランダ代表は失っている。

1週間で噴出した人事絡みの騒動

 殺風景な観客席とは裏腹に、ギリシャ戦の記者室はオランダ人記者で賑わっていた。ここ1週間、オランダサッカー協会(KNVB)とオランダ代表は人事で“ソープオペラ”(メロドラマ)を演じていたのだ。しかも、役者はルート・フリット、マルコ・ファン・バステンといったビッグネームである。

「そりゃあ、選手たちは『自分たちの頭の中にはサッカーのことしかない』って答えるよ。だけど、それは無理だ。だって俺たち記者は、選手たちにサッカーのことより騒動のことを質問したいわけだ。それが続けば多かれ少なかれ、今回の件は選手にも影響するはずだ」と大手紙の代表番記者は言う。

 ファン・バステンはスウェーデン戦を最後に、コーチを務めていたオランダ代表から去り、FIFA(国際サッカー連盟)に転身することが決まっている。「KNVBとファン・バステンの契約は残っているので、FIFAが移籍金を払うわけですね(苦笑)」とオランダのニュース番組は解説していた。

 この1週間だけでも、オランダではこれだけの騒動があった。

・テクニカル・ディレクター(TD)のハンス・ファン・ブルーケレンの意向で、20年間チームマネジャーを務めてきたハンス・ヨリツマが2017年1月1日付でKNVBを退職。これにダニー・ブリント監督とチームスタッフが反発し、選手のサインも集めて決定の撤回を要求

・KNVBのプロサッカー部門ディレクター、ベルト・ファン・オーストフェーンが退任を発表。彼はオランダ代表チームの責任者でもあり、監督・コーチ人事も行った人物

・ファン・バステンコーチがKNVBを辞め、FIFAに転身することがテレビのトークショーでリークされる

・ファン・ブルーケレンTDがフリットにコーチ就任を打診するも、交渉は決裂。2人の関係が険悪になる

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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