ミルコ会心!「鎌」の切れ味ファルクスV 「最低の騎乗」福永アーサーまさかの大敗
課題のスタート克服、直線も切れた
「最近は(自分自身が)いっぱい勝っていなかったんだけど、G1は今年3勝目。秋のG1シリーズの最初で勝つことができて、とってもうれしいです(笑)」
ますます日本語が上達したミルコが、笑顔いっぱいにそう話した。レースはスッと好スタートを決めて、道中はちょうど中団。尾関調教師が「想像していたよりもいい位置だった」と振り返ったほど、この馬としては「前」の位置取り。この行き脚には名手ミルコも驚いていた。
「レッドファルクスはスタートがそんなに速くない馬。大外のネロはスタートが速いので、できればその後ろをついていければと思っていたんだけど、今日はゲートを出てくれた。調教ではズブかったのに、今日はスタートからいい感じで行くことができました」
リズムよく中団追走から直線は外へ。馬群で行き場をなくした上につまずいてしまったビッグアーサーとは対照的に、ミルコ&レッドファルクスの前にはさえぎるものはなく、スムーズに自慢の末脚を全開! 快速逃げで押し切りを狙ったミッキーアイルをゴール寸前で差し切り、GI初挑戦にしてビッグタイトルを手中にした。
「レッドファルクスのことは大好きです(笑)。これで3回乗って3回勝つことができた。最初に勝ったのは未勝利戦で、そこからどんどん良くなっている。気性もいい馬だし、併せ馬になったら絶対に負けないですね」
「先生はGIを勝ったことがありますか?」
「まだ、ない」
そう答えた44歳の若手トレーナーに、日本で愛されるイタリア人ジョッキーは最高のプレゼントを贈った。そして、厩舎にとっては開業8年目にしてつかんだGIビッグタイトル。ここまでの歩みを思い返した尾関調教師の目には涙があふれていた。
秋の新王者はもともと左回りでそれまでの全7勝を挙げるほど生粋のサウスポーと思われていた。それは尾関調教師も同じだったようで、だからこそ「CBC賞を勝った時点で、間違いなくベストな条件の来年の高松宮記念は勝たせなきゃと思っていた」という。となれば、中山千二より条件が上向く中京千二はさらにレッドファルクスの末脚が生かされることだろう。来年の3月にはレッドファルクスvs.ビッグアーサーによる一騎打ちという構図が出来上がっているのか、それともこのスプリンターズSでも3、4着に食い込んだ現3歳世代がさらに勢いを増してくるのか、今から楽しみでならない。
競馬の世界にも“二刀流”の傑出馬
「もちろん、香港スプリントも選択肢の1つとして考えたいですね。また、ご存知の通りこの馬はダートでも走れる“二刀流”ですので、色んな選択肢の中から、この馬の状態を見て使っていきたいと思います」
ダートに関してはオープン特別を勝つほどの巧者で、ミルコも「走り方からも良さそう」と太鼓判。プロ野球の世界では、大逆転でパ・リーグを制した北海道日本ハムファイターズの大谷翔平選手が投打でV牽引の活躍を果たしたが、競馬の世界でも久しぶりに芝・ダート“二刀流”の傑出馬が誕生したのかもしれない。
(取材・文:森永淳洋/スポーツナビ)