サンマがなくてもイワシだ。静かに進軍。「競馬巴投げ!第129回」1万円馬券勝負
トウカイテイオーが体長21メートルになったら困る
【写真2】河井智康著『大衆魚のふしぎ』(講談社ブルーバックス) 【写真:乗峯栄一】
河井智康は「底引き網でも、深海探査機のような海洋調査でも、魚の死骸が殆ど見られないのはなぜだ」という問いから始め「魚は生きているうちに他の動物に食われて死ぬのが原則である」という結論に達する。
「ダメ、胃ガンかもしれない」とか「老衰だから海底で静かに眠る」とか、そういう死に方は魚では許されない。その前に必ず食われるからだ。
競走馬で2年、セミで17年、人間で18年という成長期が魚類では何百年というとてつもなく長期間という可能性もある。「ああ2百年生きて体長50メートルのマグロの“本おとな”になりたい」とどの本マグロもそう夢見るが、有史以来ただの一匹も“本おとな”になったマグロはいない、その前に食われるからだ。
「成体到達点」(馬2歳、人間18歳)は、多分「お互い食い合わない」という地上生物の調和システムだろう。魚と違い、地上生物が歳を取るほど大きくなったら困ること続出だ。人間は百歳越えると身長10メートルになる。介護にクレーン車を使い、移動に車両運搬車を使わないといけない。21歳になったトウカイテイオーは体長21メートルの巨大トレーラーのようになって、これは収容する馬房に困る。一完歩百メートルが可能になり「直線千メートルなら10完歩で行ける」と現役復帰を目指すかもしれない。しかしそうなると、ゲートが困る。
スーパーでイワシが安ければ、安心して胸を撫で下ろしていい
河井智康は「魚にはプランクトン食性、雑食性、魚食性の三種類がある」という推論を立てた。マグロやブリなどの大型魚はだいたい魚食性であり、卵から孵化したばかりの稚魚は“共食い”によって生き残る。イワシ、サンマ、アジ、サバという大衆魚はプランクトン食性である。
たとえば、サンマが大量発生すれば稚魚も大量発生するが、それを狙って魚食性プランクトンも大量発生する。その結果、サンマは激減するが、その魚食性プランクトン(サジッタ、小型クラゲなど)などを狙って、別のプランクトン食性の大衆魚(イワシ、サバなど)が大量発生して、魚種交替のメカニズムを生むという推論である。
つまりプランクトン食性の大衆魚は、10年周期ぐらいでイワシ→サンマ・アジ→サバという魚種交替を行っていて、特に同じ生息区域のサンマとイワシは「サンマが減ればイワシ、イワシが減ればサンマ」という相補関係にあるらしい。サンマが不漁の今年、もし、スーパーでイワシが安ければ、安心して胸を撫で下ろしていい。
いや、目から鱗の河井理論だが、この河井智康農学博士、2006年に妻と共に息子に刺し殺されるという事件にあった。ニュースで見て「河井博士って、あの魚種交替理論の河井さん?」とびっくりしてしまった。何でもかんでも「地球温暖化・異常気象」のせい(温暖化が原因ということもあるんだろうが)にしようとするニュースキャスターたちに、もうちょっと生きて意見して欲しかった。