岡田メソッドの肝となる「守・破・離」 日本人に合う型を求め、考えながら走る

川端暁彦

今治が「森育」に取り組むわけ

FC今治が取り組む「森育」。渡辺コーチは自然と触れ合うことで子供たちの変化を感じている 【(C)FC今治】

 ならば、どうするか。一つの施策として、今治は「森育」に取り組んでいる。

「現代社会だから、あるいは日本の社会や文化だから育たない部分がもしかしたらあるのかもしれません。でも、そのないものを追い求めても仕方ないという話は吉武さん(博文トップチーム監督)ともよく話すんですね。こういう社会なのは仕方ない。でも、本能的な部分がなければ、日本人は勝てません。だからどうするのかということですよね。今治では『森育』という野外体験に取り組んでいますが、そういう活動の中で変わる部分もあるなと感じています」

 今治市のイメージは一般的には「田舎」かもしれない。島から通っている選手もいると聞いていたので野外体験を重視すると聞いて意外な思いもあったのだが、そう単純な話でもないらしい。渡辺コーチは「それ、僕も持っていた誤解です」と笑って言う。

「こっちに来てびっくりしたことが、島の子たちのイメージがまるで違っていたことです。名古屋から来た自分が持っていた島の子供のイメージというと、元気よくて、力強くて、やんちゃで、肌はよく日焼けしていて……。でも実際はおとなしい子も多くて、『何でだろうな?』と思って聞いてみたら、『家でいつもゲームしています』とか言われるんです。もう島の環境も昔とはまるで変わってきているんだと実感させられました」

 少子化・過疎化の波の中で、島の中で子供同士が遊ぶということ自体が難しくなっている面もあるのだそうだ。だからこその「森育」だ。果たしてそんな劇的な効果があるのかと思ったが、「いや変わります、変わりますよ」と渡辺コーチは言う。

「やっぱり、本当の意味での自然と触れ合うこと自体がほとんどないんです。これが日本の現状ですよね。危ないから行くなというのもあるんでしょう。変な言い方ですが、人工的に自然の中に行く環境を作ってあげる必要があると思います。まあ、僕が驚いたようなことは岡田さんがとっくに気付いていて、だからこそのアプローチだと思います」

「どう現代の日本人に当てはめるか」

岡田メソッドは「サッカーの基本的な原則を言葉にしているだけ」と語る渡辺コーチ 【スポーツナビ】

 自分の過去の指導も振り返りながら、渡辺コーチは「いかに野外体験とかピッチ外の部分で子供たちに提供できることをやってこなかったか」と言いつつ、「今の日本の子供」と向き合うことを諦めずに取り組んできた。

「本当に未熟者で、去年は吉武さんに子供たちの練習をやってもらうことがあったんです。そして終わったあとで子供たちに『いつもの練習とどっちが楽しかった?』と聞くと、みんな『今日!!』って言うんですよね(笑)。ヘコみますけれど、でも本当に勉強させてもらえる毎日です」

 型を言語化して早期に習得させ、イメージを共有させる方法論自体は「スペインに端を発しているようです」と渡辺コーチも言うように、外来の要素を持ったやり方と言える。ただ、岡田メソッドの肝は、型を教えればいいという乱暴な話ではなく、「どう現代の日本人に当てはめるか」を誠実に考えている部分なのだろう。

 誤解もあるようだが、サッカーについても突飛なやり方をしているわけではない。これは「サッカーの基本的な原則を言葉にしているだけ」と渡辺コーチが強調するとおりで、何か魔法のような戦術によって立つわけではない。何より、現場で「子供たちのために」の一念から必死に試行錯誤を重ねる指導者がいるという点も変わらない。岡田メソッドを体現するために、何より自分の預かった子供たちの未来のために「考えながら走る」渡辺コーチの話を聞きながら、そんなことを思った。

2/2ページ

著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント