岡田メソッドの肝となる「守・破・離」 日本人に合う型を求め、考えながら走る

川端暁彦

型から飛び出すために必要な「野性」

FC今治では育成年代でも岡田メソッドを伝えている。指導のポイントはどこにあるか? 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

 日本の伝統芸能になぞらえて「守・破・離」にたとえられたFC今治の「型」。共有する「型」を身に付け、細かいプレーを言語化することでイメージの共有も容易にする。このことで試合の状況把握やチームとしての狙いを共有することも簡単になったという。その一方で、一つの疑問も浮かび上がってくる。型から入ることを日本人が得意とするのは確かだが、一方で型を破ることや、型から離れることとなると、どうだろうか。型の習得の第一歩を担うU−12年代の指導に当たる渡辺憲司氏の悩みも、まさにこの「守・破・離」の部分にあるのだと言う。

「その疑問はよく分かります。僕としてもまさに考えながらやっている部分ですね。僕らはピッチ上で型を教え、伝えていきます。でも、それだけではきっとダメなんだと思っています」

 一般の日本人(これは選手に限らないだろう)も苦手とするのが、教えられたことの枠から飛び出していくこと。今治のファーストアプローチである型の習得が人間の「理性」による部分ならば、型から飛び出していく「野性」の要素をいかにして身に付けるのか。「子供たちの生きる力。それを育んでいかないといけないと思います」と語る渡辺コーチにとっても悩ましい点だ。

「『守』は大事なんですけれど、『守』だけで終わるようではいけないんですよね。ピッチの中でも押し付けすぎないようには気を付けてます。型を押し付けるようになってしまうと『型だけ』の選手になってしまうから、どこかでいつか破れるように、ちょっと枠をファジーにしておく必要もあるのかなとは思いながら指導をしています」

現代の日本社会が抱える課題

U−12のコーチを務める渡辺憲司は指導に当たる際に、現代の日本社会が抱える課題を感じた 【スポーツナビ】

 悩ましいのは「そのさじ加減こそが指導者の能力」という自覚があるからこそだが、恐らくどの指導者も「正解」を見いだせていない永遠の課題に近い。同時に極端な言い方をすれば、型を徹底的に教え込んでも、なお破って離れていけるようなメンタリティーを持った選手であれば課題にはならない部分だろう。

「やっぱり野性の部分ですよね。たとえば、コミュニケーションの能力も今の子供たちは高くないと思います。これは今治に限らず、今までの指導してきた子供たちもそうでした。だからこそ言葉を整理してあげる意味はあると思っていますが、同時にピッチ外の部分から働き掛ける意味も感じています」

 目指すのはやはり「野性」の獲得だが、それは今治に来てあらためて感じた部分でもあると言う。

「これはちょっと驚いたことだったのですが、『うんてい(遊具)の近くで子供たちは走っていけません』といったルールを書いた紙があるんです。校庭で遊ぶルールみたいなのが決まっていて、その範囲内で遊びましょうとなっている。僕らの世代からすると、その間を通り抜けたりとか、遊具を使って鬼ごっこをしたりとか当たり前にやっていましたけれど、今の子供たちはそれができないようになっているんです」

 安心・安全を第一にするのが現代の日本社会。

「岡田さん(武史オーナー)はよく『遺伝子にスイッチが入る』という言い方をされますが、ちょっと怖い思いをしたり、リスクを冒して危ない目にあったりとか、そういった一切が排除されているんですよ。うんていの上を歩いて踏み外すか踏み外さないかみたいなドキドキ感というのが遊びの楽しさだったし、痛い思いをして感じる部分があったりするわけですが、それがなくなっているんです」

 複数の指導者が「最近の子供はけんかをしなくなっている」という言い方をするが、こうした見方についても渡辺コーチは首肯する。

「確かに子供たちで言い合うとか衝突するというのはあまり起きないですよね。でも、本能的な部分をなしにしてしまうと、本当の意味で岡田メソッドを落とし込んだことにはならないと思うんです。メソッドを表現するのはあくまでも人。だから人として根本的な部分、たとえば目の前の相手に『勝ちたい』とかいう欲求も本能的なものだと思います。そこが希薄になると、単に知識のある選手というだけで終わってしまうと思います」

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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