より進化した水球日本代表の新戦術 ジャイアントキリングの可能性は?

田坂友暁

32年ぶりの五輪を迎える水球日本代表

32年ぶりの五輪に挑むポセイドンジャパンこと水球日本代表。最高の舞台で世界を驚かすことはできるか 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 1984年のロサンゼルス五輪以来、実に32年ぶりの五輪出場を果たした水球日本代表、ポセイドンジャパン。

 指揮官の大本洋嗣ヘッドコーチが2013年から3年の歳月をかけて、選手たちとともに作り上げた日本独自の“攻撃”システム「パスラインディフェンス」を武器に、志水祐介キャプテン(ブルボンウォーターポロクラブ柏崎)が掲げる目標のベスト8に到達するには、何が必要なのか。

 五輪出場を決めた昨年12月以降に行われた国際大会、FINA水球ワールドリーグ・インターコンチネンタルトーナメントとスーパーファイナルの結果、さらに強豪国であるモンテネグロとの練習試合の結果も踏まえながら、その道筋を探る。

パスラインディフェンスの特徴と、露呈した弱点

パスラインディフェンスが進化する一方で、その対策も進む。5月の大会ではブラジルの高さを生かした攻撃に、日本は苦しめられた 【写真は共同】

 5月、ワールドリーグ・スーパーファイナル進出を懸けた予選である、インターコンチネンタルトーナメントが神奈川県の横浜国際プールで行われた。

 この大会の出場国は6カ国。米国、オーストラリア、ブラジル、中国、カザフスタン、そして日本だ。このうち、リオデジャネイロ五輪本番の予選リーグで当たるのは、オーストラリアとブラジル。まさに五輪前哨戦とも言える大会に、並々ならぬ決意で臨んだ日本だが、結果的には両国に敗北。しかもブラジル戦では、ポセイドンジャパンが作り出したパスラインディフェンスの弱点を突かれる苦しい戦いになった。

 パスラインディフェンスとは自軍ゴールを背にして、オールコートで相手よりも前方、もしくは横について、パスコースを防ぎながらシュートを打たれる前にボールを奪うディフェンスシステム。オールコートで対峙するため、相手が苦し紛れにシュートを選択しても、ゴールからかなり離れていることが多く、キーパーがブロックしやすい点も特徴だ。

 ブラジルは、そのマンツーマンディフェンスの穴を突いてきた。オールコートで広く相手に当たるため、自軍ゴール前には大きなスペースができる。そこで、高さで優位に立つブラジルは、ゴール前にひとり大型センターを置き、そこへ高いふわっとしたボールを放り込み、上からたたき落とすようなシュートで得点を奪っていったのだ。

 高く、そして正確なパスを出されてしまうと、日本はなすすべもなかった。事実、1回目のブラジル戦は10−16で完敗する。

 これは、高さで劣る日本に対する作戦として、エースである竹井昂司(全日体大)も「僕が監督なら、この戦略で日本を攻めます」と話すほど、的確に日本の弱点を捉えた戦法だった。

新戦術だけではない、日本最大の武器とは

2008年から代表に名を連ねている志水キャプテン(右)。日本水球の成長を支えてきた 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 五輪まで残り3カ月という時期に、しかも本番で当たるブラジル、オーストラリアを前にして、大きな弱点が露呈してしまった。しかし、日本はただでは転ばない。このブラジル戦の後、志水キャプテンはこう話していた。

「実力差ではない。自分たちがやるべきことができていなかった。やるべき動きができれば、必ずブラジルを押さえ込める」

 その言葉通り、翌日の順位決定戦で再び激突したブラジル戦では、第3ピリオドまで9−8と、1点リードの展開で進んだ。最終ピリオドで惜しくも逆転されて敗北を喫するが、12−13の1点差ゲームにまで持ち込んだのだ。

「昨日は夜、ビデオを見ながら作戦ミーティングをしました。それがしっかり生きていたと思います。今大会で弱点や課題は明確になっているので、それを修正していくだけです」

 日本が32年ぶりに五輪出場を決められた理由のひとつが、この対応能力の高さだ。パスラインディフェンスは、全く新しいシステムのため、答えなど存在していない。2013年に導入し始めたときと比べても、3年で大きく様変わりしている。強豪国と対戦し課題が浮きあがる度に修正を加え、それを確実にものにしていく。この対応力こそが、実は日本の最大の武器なのである。

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著者プロフィール

1980年、兵庫県生まれ。バタフライの選手として全国大会で数々の入賞、優勝を経験し、現役最高成績は日本ランキング4位、世界ランキング47位。この経験を生かして『月刊SWIM』編集部に所属し、多くの特集や連載記事、大会リポート、インタビュー記事、ハウツーDVDの作成などを手がける。2013年からフリーランスのエディター・ライターとして活動を開始。水泳の知識とアスリート経験を生かした幅広いテーマで水泳を中心に取材・執筆を行っている。

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