より進化した水球日本代表の新戦術 ジャイアントキリングの可能性は?

田坂友暁

強豪モンテネグロと互角の戦い

大本監督(左)の下、新戦術パスラインディフェンスは日々進化を続けている 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

「パスラインディフェンスは、攻め込ませたほうが効果的なんです。どんどん前に出てきてもらったほうが、カウンターをかけやすい。だから、先制されて追いかける展開ではなく、こちらがリードする展開を作ること。そうすれば、こちらのペースで試合を進めることができるようになる。そのためにも、スタートダッシュが今の課題と言えますね」(大本ヘッドコーチ)

 6月12日、日本に合宿に来ていたモンテネグロとの公開練習試合で、その成果は目に見えて表れた。試合こそ6−9で敗れたが、第1ピリオドを2−2の同点でスタートできたのだ。

「スタートダッシュもそうですが、インターコンチネンタルトーナメント以降、相手にスタンディングシュート(後ろに大きく振りかぶる、スピードの速いシュート)を打たせないためのディフェンスを練習してきました。今までなら2−20とかで負けるような相手でしたから、それはできていたと思います。ここまで食い下がれたことは、確実に力が付いている証拠です」(大本ヘッドコーチ)

 少しずつ、着実に成長を続ける日本代表は、6月のワールドリーグ・スーパーファイナルでのブラジル戦で、対応力と修正能力の高さを世界にアピールする。前半をなんと10−3の7点リードで終え、課題だったスタートダッシュに成功。後半は差を詰められながらも12−10でブラジルを破り、過去最高順位となる6位で大会を終えた。五輪出場を決めてから5カ月で露呈した弱点を修正し、そこから1カ月で結果をだしてみせたのだ。

ジャイアントキリングを成す3つの条件

 今の日本は、敗北をただの敗北で終わらせることはない。麦が踏まれて踏まれて強く成長していくように、敗北という経験が日本をさらに強くする。32年ぶりに世界への挑戦権を得たことは、日本が強くなるための布石に過ぎない。

 スーパーファイナルでブラジルに勝利したものの、オーストラリア、ギリシャには敗北。五輪で掲げるベスト8達成のためには、このふたつの敗戦を糧にして、パスラインディフェンスの進化をさらに推し進めることが最大の課題となる。

 この課題は大きく分けると3つある。ひとつは、スタートダッシュで先制し、相手に“攻め込ませる”こと。ふたつ目に、攻め込ませたことで発動できる“カウンターアタック”を確実に決めていくこと。最後に、疲れが見え始める第3、4ピリオドの後半、どれだけ積極的にオールコートで相手をつぶせるか。

 日本に残された時間は、さほど多くない。スーパーファイナルでの敗戦が、どれだけ日本のパスラインディフェンスを進化させているのか。その取り組みが実を結んだとき、五輪で世界をあっと言わせるジャイアントキリングを引き起こせることだろう。

 極東の国から来た、小柄で俊敏なチームが、水球の面白さを世界に知らしめる日は近い。

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著者プロフィール

1980年、兵庫県生まれ。バタフライの選手として全国大会で数々の入賞、優勝を経験し、現役最高成績は日本ランキング4位、世界ランキング47位。この経験を生かして『月刊SWIM』編集部に所属し、多くの特集や連載記事、大会リポート、インタビュー記事、ハウツーDVDの作成などを手がける。2013年からフリーランスのエディター・ライターとして活動を開始。水泳の知識とアスリート経験を生かした幅広いテーマで水泳を中心に取材・執筆を行っている。

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