リンスカムはまだ終わってない! 新天地エンゼルスで示す復活への覚悟

鈴木良枝

未契約のままリハビリを経て投球を披露

オークランドでの復帰戦には多くのファンが駆けつけた 【Getty Images】

 オフにFAとなり、開幕してからも未所属なまま復帰に向けて日々を過ごす。ソフトボール場、高校のアメフト場、コミュニティーカレッジのグラウンド、マイナー施設のマウンド、地道に投げ続けた。

「最初はロングトスから始めて、短い距離のキャッチボール、60フィート(約18メートル)のオフマウンドピッチ、そしてブルペンセッションと段階を重ね、最終的には90球を投げられるようになった。それからは中4日で投げるルーティンを続けたよ。100%になるまで準備を重ねようと思っていた」

 そしてついにピッチングを披露できる時が来た。

 5月6日、アリゾナ州スコッツデールにあるジャイアンツのマイナー施設で、メジャー20球団以上から集まった50人を超える首脳陣やスカウトを前に41球を投じた。

 昨年まで平均89マイル(143キロ)まで落ちていた速球も、平均91マイル(約146キロ)まで戻り、最速は92マイル(約148キロ)を記録。

「手術することで球速と制球が戻ると言われた。実際痛みが解消され、可動域が広がった。しっかり軸足で立ててバランスも良くなったよ。ケガをしたことで、体が変化することがわかった。その動きを、体と脳という異なるレベルで適応していく方法を学ばなくてはならなかった。ケガから学んだことは多いよ」

 そうリハビリ期間を振り返った。

復帰初戦以外は苦戦も…

 朗報はすぐにやってきた。大方の予想はジャイアンツとの再契約だった。しかし、ローテーション不足で先発投手の獲得が急務のエンゼルスと、先発投手でという彼の希望がかみ合う。

 個人的には意外だったと告げると「そう? 僕はWest Coast Boyだからね。ラッキーだよ」と笑った。マイナーでの登板を経て、たどり着いたメジャー復帰戦。オークランドのビジタークラブハウスでは、かつて彼がジャイアンツ時代にビジターで来た時と同じロッカーの場所をチームは用意した。見慣れた光景に55番があった。

「先発として投げる機会をもらい、ここ(メジャー)に戻ってこられて本当に幸せだよ。ちょっと長く感じたけど、とにかくチームのために一生懸命働くだけ」

 元チームメイトも彼の“再就職”を祝福した。ジャイアンツでバッテリーを組んでいたバスター・ポージーは「またティミーのボールを受けられると思っていたからね、残念だけど。ティミーみたいな投手には二度と出会うことはないと思うよ」と語った。

 現在、エンゼルスは地区最下位とチーム状態が非常に悪い。投打もかみ合わず、何とか浮上のきっかけをつかもうと模索している。そのピースの1つがリンスカムの獲得だった。

 その復帰戦こそ好投したが、2戦目は3回4失点で負け投手。3戦目は5回途中5失点で2敗目を喫した。7月5日の4戦目は勝敗はつかなかったが、5回途中5失点と期待に応えられていない。

「エンゼルスとリンスカムのハネムーンはすでに終わった」(MLB.com)
「彼の初戦はまぐれだった印象を残している」(オレンジカウンティ―レジスター)

 既に厳しい声が聞かれている。

終わりの始まりか、復活へのスタートか

 実際、リンスカムの復活に関しては賛否両論ある。

「リリーフなら成功するが、先発だともう厳しい」という意見の一方で、「全盛期のような活躍は見込めないが、ベストコンディションで投げることができれば10勝はできるかもしれない」と言う記者もいる。

 ずっとリンスカムを見てきた『サンフランシスコ・クロニクル』のジョン・シェイ記者は「活躍できるか疑問視されているが、可能性は十分ある。肘や肩の故障は抱えていない。手術をしたことで、投球フォームも戻ってきた。そのおかげで球速も出ている。彼はまだ32歳。そしてして何より経験がある。20代でサイ・ヤング賞2回、ワールド・チャンピオン3回、ノーヒッター2回を成し遂げた心臓の持ち主だ」と分析する。

「これはリンスカムの終わりの始まり」と考えているスカウトもいるが、本人は「復活へのスタート」と捉えている。今シーズンの残りで良いピッチングを披露することで、来年のローテーションの場所を見つけることができるはずだ。

「チームのためにやるべきことはわかっている。何も保証されていないことも。過去の実績は関係ないよ。僕はまたシーズン30試合に登板し、200イニング以上投げられるようになりたいんだ。今は前に進んでいくだけ」

 野球ができる喜びを感じながら、覚悟を胸にしまいながら、リンスカムは復活に向けて次のマウンドをまっすぐに見据えた。

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著者プロフィール

サンフランシスコ在住。テレビ局勤務。スポーツリポーター、AP、コーディネーター。高校野球の監督だった父親の影響で高校・大学では野球部のマネージャーを務める。大学時代よりプロ野球やMLB中継に携わる。テレビ局のスポーツ局での勤務を経て、その後拠点を米国に移す。現在はサンフランシスコ・ジャイアンツやサンフランシスコ49ersなどスポーツの取材を中心に行うほか、コーディネーターとして幅広くテレビ番組の制作にも関わっている。

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