イタリアがユーロで示した可能性と限界
戦力不足を戦術で埋め合わせたコンテ監督

敗退にもポジティブな論調一色だった国内メディア

PK戦での準々決勝敗退という結果に、イタリアメディアはコンテ監督とチームの健闘をたたえた
PK戦での準々決勝敗退という結果に、イタリアメディアはコンテ監督とチームの健闘をたたえた【写真:ロイター/アフロ】

「顔を上げて(SU LA TESTA!)」(『ガゼッタ・デッロ・スポルト』)

「偉大なるイタリア(GRANDE ITALIA)」(『コリエーレ・デッロ・スポルト』)

「ありがとう!(GRAZIE!)」(『トゥットスポルト』)


 これは、ドイツとのユーロ(欧州選手権)2016準々決勝に敗れた翌7月3日、イタリアのスポーツ3紙が1面トップに掲げた見出しである。


 一般紙やテレビも含めたイタリアメディアは、世界王者を敗退ぎりぎりまで追い詰めたチームの健闘をたたえ、興奮と感動を与えてくれたイタリア代表とアントニオ・コンテ監督に感謝する、きわめてポジティブな論調一色だった。敗因追求や戦犯探しといったネガティブなニュアンスはきわめて希薄。SNS上では、PKを失敗したシモーネ・ザザやグラツィアーノ・ペッレに対する皮肉やパロディが飛び交っているが、その多くは悪意のないものだ。


 普段はとにかく結果にこだわり、勝てば持ち上げ、負ければ手のひらを返してたたくのがこの国のマスコミだが、今回ばかりは様子が違う。それは、コンテ率いるこの“アッズーリ(イタリア代表の愛称)”が、開幕からここまで持てる力をすべて絞り出して戦ったこと、このチームにこれ以上を望むのは不可能なことを、誰もが理解し納得しているからだ。

前評判は“史上最弱のアッズーリ”

イタリアが今大会躍進を果たしたのは、コンテ監督(中央)が「戦力的な劣勢を戦術で埋め合わせた」からこそだった
イタリアが今大会躍進を果たしたのは、コンテ監督(中央)が「戦力的な劣勢を戦術で埋め合わせた」からこそだった【写真:ロイター/アフロ】

 実際、開幕前のイタリアの下馬評はきわめて悲観的なものだった。ペッレ、エデルがレギュラーを務める前線の攻撃陣は全員そろって国際舞台での実績ゼロ。中盤も本来のレギュラー3人(クラウディオ・ マルキージオ、マルコ・ベラッティ、リカルド・モントリーボ)を故障で招集できないという惨状で、計算が立つのは経験豊富なユベントス勢で固めたディフェンス陣だけ。“史上最弱のアッズーリ”という不名誉な称号を与えられ、グループステージを突破できれば上々、ベスト8まで勝ち進めば大成功とまで言われていたのだ。つい7、8年前まで、ユーロやワールドカップのようなビッグトーナメントでは、出場する以上は優勝を狙うのが当たり前、という感覚だったことを考えると隔世の感がある。


 戦力的にはドイツ、スペイン、ベルギー、フランスといった優勝候補はもちろん、イングランドやクロアチアにも見劣りすると自他共に認めていた今大会のイタリアにとって、頼みの綱はチームを率いるコンテの優れた戦術家としての手腕だった。そして結果的に、イタリアが最も楽観的な予想すらも上回る躍進を果たしたのは、代表チームというよりもクラブチームに近いレベルの緻密かつ高度な組織的秩序をチームに浸透させることを通じて、コンテが「戦力的な劣勢を戦術で埋め合わせた」からこそだった。

卓越した「戦術」と貧弱な「技術」

グループステージのベルギー戦、ラウンド16のスペイン戦(写真)は「戦力で勝る相手を戦術でねじ伏せた」という意味で、まさに真骨頂とも言える試合
グループステージのベルギー戦、ラウンド16のスペイン戦(写真)は「戦力で勝る相手を戦術でねじ伏せた」という意味で、まさに真骨頂とも言える試合【写真:aicfoto/アフロ】

 コンテがイタリア代表に導入したシステムと戦術メカニズムは、現代サッカーの常識からすると異端と呼ばれてもおかしくない特異なものだ。


 最終ラインは、世界的なスタンダードとなっている4バックではなく、センターバック(CB)3人をペナルティーエリアの幅に並べた3バックが基本。しかし実際のゲームの中では、ボールの位置や相手の布陣に応じて、最終ラインは3人、4人、5人と自在に変化する。攻撃は最終ラインからパスをつないでビルドアップするにもかかわらず、中盤でのポゼッションには一切拘泥せず、後方でのパス回しから縦パス1本で攻撃を加速すると一気にフィニッシュまでなだれ込む。「ポゼッションかカウンターか」という単純な二項対立の図式には収まらない、独自の発想に基づく独特のメカニズムを持っているのだ。


 ボールポゼッションでは大きく下回りながら、実質的には相手に狙った通りのサッカーをほとんどさせず、最後まで試合をコントロールして勝ち切ったグループステージ初戦のベルギー戦、ラウンド16のスペイン戦は、「戦力で勝る相手を戦術でねじ伏せた」という意味で、まさに「コンテのイタリア」の真骨頂とも言える試合だった。


 どちらも、スコアそのものは終盤まで1−0という接戦だったが、これはイタリアが決定機やそれに近い危険な状況を繰り返し作り出しながら、それをゴールに結びつけられなかったためだ。例えば枠内シュート数を比較しても、ベルギー戦は5対2、スペイン戦は7対5と、いずれもイタリアが上回っている。これらのチャンスはいずれも、ダイレクトパスによる2トップのコンビネーション、タイミングのいいインサイドハーフの裏への走り込みなど、予め用意された戦術的なメカニズムを生かして作り出したものだが、それがゴールにならなかったのは、パス、ボールコントロール、シュートにおいて精度を欠いたことが原因だった。卓越した「戦術」と貧弱な「技術」。今大会のイタリアが抱える可能性と限界は、まさにそこにあった。

片野道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)に続き、この6月に新刊『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディとの共著/ソル・メディア)が発売。

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