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イタリアがユーロで示した可能性と限界
戦力不足を戦術で埋め合わせたコンテ監督

ドイツはイタリア対策で3バックを採用

イタリア戦で4バックを捨て、3バックを採用したレーブ監督(写真)
イタリア戦で4バックを捨て、3バックを採用したレーブ監督(写真)【写真:ロイター/アフロ】

 準々決勝のドイツ戦は、両チームとも枠内シュートが3本ずつという、上記の2試合と比べると、ずっとシビアで膠着(こうちゃく)した展開になった。その最大の要因は、ドイツがイタリアの攻撃を封じるために、より守備的な方向にシステムを修正してきたためだ。ヨアヒム・レーブ監督は、ラウンド16でスロバキアを3−0で下した今大会の“最終形”とも言うべき布陣からMFユリアン・ドラクスラーを外してDFベネディクト・ヘーベデスを入れ、システムも4バックの4−2−3−1から3バックの3−4−2−1へと、重心を後ろに下げてきた。


 イタリアの3−5−2は、攻撃時には左右のウイングバックが敵陣深くまで進出して実質3−3−4とも言うべき布陣になって、2トップと2ウイングバックの4人が敵の4バックと4対4の関係を作るのが大きな特徴だ。守備の基本は相手に対して数的優位を作ることだから、4対4の数的均衡はそれだけで守備側にとって不利な状況。コンテはこの4対4(とりわけ中央での2対2)を利用して、最終ラインを攻略するパターン攻撃のメカニズムを複数用意しており、ここまでの4試合でもそれを使って再三危険な場面を作り出してきた。


 その代表的なパターンの1つが、4対4でくぎ付けにした敵の最終ラインの裏に2列目からインサイドハーフが走り込み、そこに後方から浮き玉の「タッチダウンパス」を送り込むという、ベルギー戦でエマヌエレ・ジャッケリーニが決めた先制ゴールの場面だ。また、得点には結びつかなかったが、サイドから2トップに入った斜めのパスに対して、1人目のFWがスルーして裏に飛び出し、2人目がそこにワンタッチでスルーパスを流し込むというコンビネーションも今大会では多用された。1人目をマークしているDFがスルーに虚を突かれて飛び出しへの反応が遅れるため、裏に抜け出した時にはほぼ確実にフリーになっているという仕組みだ。


 レーブ監督が準々決勝のイタリア戦で3バックを採用したのは、この中央での2対2を避けて常に数的優位を保ち、2列目からの走り込みや裏への飛び出しに3人目のCBがカバーリングで対応できる体制を確保する狙いだったと思われる。

イタリアの戦術的に難易度が高いシステム

 実を言うとこれは、コンテが3バックを採用している理由の1つでもある。通常、相手が最前線中央に送り込んでくるアタッカーは2人。3バックはそれに対して常に数的優位を保ち、中央の守りを厚くできる。相手が3トップの場合にはボールから遠いサイドのウイングバックが、4−2−3−1の前4人が2ライン間に侵入してきた場合には左右のウイングバックがそれぞれ最終ラインに加わることで、4バック、5バックになって常に数的優位を保つことが可能となる。逆に相手が前線に送り込んでくる人数が少ない場合には、両ウイングバックが高い位置を取ることで中盤に厚みをつけることができる。


 今大会でもほとんどのチームが採用していた4バックのシステムは、守備の局面では4DF+4MFのコンパクトな2ラインによる守備ブロックを構成するという固定的なメカニズムが基本になっている。それに対してイタリアの3バックはより流動的であり、かつ堅牢性が高い。ただしそれは、チーム全員が状況を的確に読み取り、組織的な連係を崩すことなくポジションを取り続けることが大前提。個々のプレーヤーには高度な戦術的引き出しと、それをミスなく遂行する注意力・集中力が要求される。技術的にではなく戦術的に難易度が高いシステムなのだ。


 通常、異なるクラブでプレーする選手の寄せ集めである代表チームには、これだけ高度なメカニズムを浸透させ機能させることは不可能だ。しかしこのイタリア代表は、3バックを構成するアンドレア・バルザーリ、レオナルド・ボヌッチ、ジョルジョ・キエッリーニ(と控えのアンジェロ・オグボンナ/現ウェストハム)、そしてGKジャンルイジ・ブッフォンが同じユベントスで、しかもコンテのもとで3シーズンプレーしており(オグボンナは1シーズン)、その戦術を完全に身に付けている。


 ベルギー、スペイン、ドイツという世界トップレベルの強豪にチャンスらしいチャンスを数えるほどしか作らせなかった(そのほとんどは偶然が生み出したものだった)堅固なディフェンスは、戦術そのものの緻密さに加えて、それを遂行する選手の習熟度にも支えられていたというわけだ。


 守備の局面では5−3−2や5−4−1、攻撃の局面では3−3−4になるという高い流動性を持っているところが、イタリアの3−5−2の大きな特徴だ。その点ではドイツが本来採用している4−2−3−1も同じ。ドイツのそれはより過激で、攻撃の局面では最後尾にCB2人だけを残し、その前をトニ・クロース、サミ・ケディラという2ボランチが固めて、残る6人は敵中盤ラインの背後、いわゆる2ライン間にポジションを取るという、実質2−2−6の陣形になることすら珍しくない。攻撃の幅は高い位置まで攻め上がったSBが確保し、2列目両サイドのメスト・エジルとドラクスラーは、敵中盤ラインの背後に出たり戻ったりしながらポゼッションに加わり、最終ラインをこじ開けるチャンスをうかがうというメカニズムである。


 しかしこの試合のドイツは、その4−2−3−1の前線(2列目)から1人削って最終ラインに回した結果、守備の局面では通常の4−4−2が5−3−2になって後方中央の厚みが増した(そのおかげでイタリアに裏を取られる場面はわずか2度しかなかった)反面、攻撃の局面では2−2−6ではなく3−2−5(しばしば3−3−4)となり、いつもよりチームの重心が下がって攻撃の最終局面に人数がかけ切れず、持ち前の破壊力は影を潜めることになった。ちなみに、守備時に5−3−2、攻撃時に3−3−4というのは、イタリアの布陣とうり二つ。レーブ監督はプライドを捨ててイタリアの戦術をコピーするだけの謙虚さとリスペクトを持っていた、ということかもしれない。

片野道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)に続き、この6月に新刊『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディとの共著/ソル・メディア)が発売。

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