イチローが考える偉大な記録とその達成者 会見での言葉から見える記録観

丹羽政善

レールを外れても必要な考える力

日米通算4256安打目となった内野安打 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 イチローの言わんとする、“狂気に満ちた”という世界の一端がうかがえるが、確かに成功した選手というのは一癖も二癖もある。

 日本人大リーガーにしても、日本野球界のスタンダードで見れば、かなりレールを外れているのではないか。

 マリナーズの岩隈久志投手は堀越高時代、強制される練習に嫌気がさし、野球を辞めた経験を持つ。レンジャーズのダルビッシュ有も「僕が高校野球の時は、全体練習にいませんでした。寝ていました」と笑いながら言った。

 ただ、彼らには共通して、考える力、判断する能力があった。

 ダルビッシュがこんなエピソードを振り返っている。

「土日だけとか来るコーチがいて、みんなうさぎ跳びをやらされていた」しかし、ダルビッシュはやらなかった。「感覚的にやらないほうがいいと思った」そうで、その弊害を予感した。「(しない方が)ケガのリスクもない」

 とはいえ、高校時代の練習である。やらないという選択をすることの方が難しい。それでもダルビッシュは、“なんだあいつは?”と言われようが、自分で考えて、その練習は必要ないと拒否したのだった。

周囲に「笑われて」も実現してきた自負

 そもそもイチロー自身、何を変なこと言ってるんだ? と「笑われていた」。

「小学生のころに毎日、野球を練習して近所の人から『あいつ、プロ野球選手にでもなるつもりか?』って」

 そのとき、「悔しい思いをした」そうだが、「でもプロ野球選手になった」。

 やがて、日本で7年連続首位打者を獲得。マリナーズへ移籍の時、「(大リーグでも)首位打者になってみたい」と言うと、「やっぱり笑われた」と振り返る。

「でも、それも2回達成した」

 イチローは言う。

「僕は子供のころから、人に笑われてきたことを常に達成してきている自負はある」

 ローズの記録に話を戻せば、彼はイチローの日米通算安打について、大リーグよりもレベルの低い日本の安打数を加えるのは、記録でもなんでもない――などと言っていたが、イチローはそんなローズのことをむしろ「うらやましい」と思ったそうだ。

「日米合せた記録とはいえ、生きている間に見られて、ちょっとうらやましいですね、ピート・ローズのことは。僕も(自分の記録を破られる瞬間を)見てみたい」

 どんな選手が抜くのか。どういう形で抜き去っていくのか。

 ローズのように嫉妬はない。ただ、それが叶う可能性を考えたとき、限りなく低いのでは、と言わざるを得ない――おそらく。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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