存続危機に立つ熊本ヴォルターズ 被災地にあるプロスポーツの苦悩

河合麗子

存続危機を発表したヴォルターズの今

キャプテンとしてチームをけん引する熊本出身の小林(7番)は、熊本地震後も積極的な支援活動を続けている 【写真提供:熊本ヴォルターズ】

 5月1日、球団は熊本地震を受けてチームが存続危機に陥っていることを発表した。

 残りのリーグ戦で入金予定だったチケット収入が途絶え、目先の資金繰りが悪化。スポンサーの多くが被災したことから来季に向けた営業収入の見通しもたたず、選手の人件費など6月までに必要な当面の活動資金3000万円が不足していることが明かされた。さらに県内の多くの体育館が避難所となっていることから、練習や試合をするホームアリーナを球団は失っていた。

 4月末、選手たちは球団から5月分の報酬の支払いが滞る可能性が伝えられていた。存続危機の発表から1カ月、チームの存続について現状を西井辰朗GMに聞いた。

「存続に向けて4月の段階より少しずつ『光』が見えてきました」

 西井GMが「光」と語るのは、当面の活動資金3000万円をフォローするNBLからのまとまった支援の話が固まりつつあることを意味している。リーグの収入源であるプレーオフ収入がまとまらなければ正確な金額は提示できないが、リーグとしても選手たちの人件費はサポートしていきたい考えが球団に示されているのだ。

 またホームアリーナの問題についても少しずつ進展している。来シーズン22試合を開催予定の熊本県立総合体育館(熊本市)の使用の見通しはいまだ立たないが、前半の14試合に関しては比較的被害の少なかった菊池市や山鹿市など熊本県北の体育館で振替開催を行う目処がたった。

 それでも球団にはクリアしなければならない課題が蓄積している。その1つは来季の営業収入の見込みが立たないこと。県内の多くのスポンサーが被災したことでスポンサー収入の落ち込みは避けられず、またリーグ戦の開催が可能になったとしても、熊本市街地から離れた郊外での開催となればチケット収入の目減りは避けられないだろう。

 球団はそんな中、6月から来季に向けた選手契約の交渉時期に入る。西井GMは苦しい心境を語った。

「もう葛藤ですよね。会社がどうなるか分からない状況の中で、選手の引き止めはしづらい。今まで経営難に陥った球団は、スポンサーの目処が立たない状況で選手たちに高額提示をし最終的にぽしゃったところがほとんど。うちはそれだけは避けたいんです。地震から1カ月が経って大口スポンサーから契約継続のお願いに回っているが、スポンサー収入がどの位になるのか、目処が立つにはもう少し時間がかかる。一緒にやりたい気持ちはあるが、選手たちの生活も考えなければいけない。彼らもすごく悩んでいると思います」

被災地に寄り添い続けるキャプテンの思い

小林(左から2人目)は東京で行われたNBLファイナルにも足を運び、自ら来場者へ募金活動を行った 【写真提供:熊本ヴォルターズ】

 球団との交渉に特に頭を悩ませる選手の1人が、ファン達から「ミスターヴォルターズ」と呼ばれるチームの顔、小林だ。彼のプロ選手としての考えはこうだ。
 
「プロ選手としてあるべき姿は、自分を高めて良いパフォーマンスを出せる状況のチームに身を置くこと。当然資金力のあるチームに移籍していくというのが普通、妥当なことです」

 それでも彼は、そう単純に決断できない地元への思い、チームへの思いを、再び涙をうかべて語った。

「ヴォルターズに潰れてほしくないというのが何より思うことです。僕には『ヴォルターズ愛』があるので、このチームが大好きだし、どうしても残りたい。みんな難しい決断を迫られていると思うし、苦しんでいます」

 選手契約は6月中に締結まで至る選手がほとんどである。この1カ月で球団はある程度のスポンサー確保と選手への条件提示を行わなければならず、一方の小林らの選手は被災地熊本への思いとプロ選手としてのキャリアを考える中で厳しい選択をしなければならない。

 そんな状況の中、小林は5月末、NBLファイナル(東京・大田区総合体育館)の会場におもむき、チーム存続を支援する募金活動に立ち、彼のもとには多くのバスケファンが集まった。地震発生直後から選手たちが行ったボランティア活動は、全国のバスケファンの共感を呼び、チームへの支援の輪を広げる形となっている。球団のホームページやSNSへのアクセスも急増し、球団へ県外からの問い合わせも増えているという。
 
 選手たちにとって苦悩の日々は続くが、被災地に寄り添う活動の歩みが止むことはない。小林は今回の経験から、被災地を支援するボランティア団体の設立を決意した。

「単純ではないですけれど、強い思いと信念があれば何かが動くと、僕はいつも思っています。自分は前に進むことが全てだと思っているので、歩みを進めながら、バスケットのこと、熊本のことを考えようと思います」

 熊本は今も普段の生活さえままならない被災者が数多くいる。そんな被災者に寄り添う活動を継続しながら、バスケットが被災者の力になる日がくることを信じたい。小林は前だけを見つめて被災地熊本での活動を続けていく。

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著者プロフィール

熊本県出身、元琉球朝日放送・熊本県民テレビアナウンサー。これまでニュース番組を中心にキャスター・リポーター・ディレクターなどを務め、スポーツ・教育・経済・観光などをテーマに九州・沖縄をフィールドに取材活動を行う。2016年4月の熊本地震では益城町に住む両親が被災した。

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