チームの変化に振り回された南野拓実 戦い続けてつかんだ自信、人としての成長

中野吉之伴

シーズン終盤につかんだ手応え

シーズン終盤には調子を上げると、躍動感のあるプレーで手応えをつかんだ 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 目の前のやるべきことから逃げずに、真摯(しんし)に取り組み続けていると、ある日急にパッと花咲くことがある。徐々に調子を取り戻した南野はチームがリーグ優勝を決めたこともあり、終盤には連続で出場機会を得ていた。そして迎えたリーグ最終節WAC戦では、90分を通して素晴らしいプレーの連続だった。

 南野が動けばパスが出てくる。南野がボールを持てばチャンスが生まれる。テンポよくパスを回し、相手サイドバックの裏のスペースにタイミングよく走り込んで起点を作り、ゴール前に顔を出しては積極的に勝負にいく。考えすぎてプレーが後手になることなく、一つ一つの動きに迷いがない。何より攻守の切り替えが恐ろしいほどスムーズだった。最後の局面でシュートを決めきれなかったのは反省点ではある。だが、それ以上にこの日の躍動感あるプレーからは大きな手応えをつかんだはずだ。

 その4日後のオーストリアカップ決勝(5−0)ではベンチスタートだったが、69分から途中出場すると休むことなく何度も何度もスペースに顔を出してパスを要求。この日も味方がパスを出したいタイミングとかみ合い、良い形でボールを受けることができていた。

 そのあたりについては「シーズンを通して良くなってきていると思う。(リーグ戦で)1位になって(2位と勝ち点差が離れて)余裕が出てきてからは、自分も含めてみんなのプレーも軽くなったと思う。それで良いイメージで試合を運ぶことができて、そういう変化があったからこそ、自分の良いプレーというのも増えているのではないかと思います」と振り返っていた。表情が柔らかい。

南野「自信を取り戻せた」

出場機会を失った時期はあるものの、自身初となる二けた得点をマーク。得るものの多いシーズンだった 【Getty Images】

「吹っ切れた?」とも聞いてみた。

「そうですね、はい。結果的に感覚はよくなってきたし、攻撃のところでもう一度前にいく自信というか、そういうのを取り戻せた。よかったかなと思います」

 印象的なシーンがある。リーグ最終戦後の優勝セレモニーの準備中の一幕だった。気取ることなく、気負うことなく、構えることなく、自然に喜び、笑顔でスタッフやチームメートと写真を撮る南野拓実がそこにいた。大きな陶器のジョッキを片手にカメラマンのリクエストに応え、そっとビールに口を運んでいた。ミックスゾーンでビールの味を聞いてみたら、「いや、樽がでか過ぎて、何度飲んでも泡だけなんですよ(笑)。だから泡だけでしたけれど、やっぱりおいしいですね」とはにかむ笑顔を見せてくれた。

「ビールかけられた後に水で洗っていたように見えたけど?」と重ねて聞くと、「いや、頭と顔痛いんすよめっちゃ、ビールかけられると。それで水で洗ってました。肌弱いんで、痛かったです」と笑い、「これからまた楽しんできます」といって祝勝会へと足を運んでいった。

 南野の2シーズン目が幕を閉じた。リーグ36試合中32試合に出場。シーズンを通して戦い、自身初となる二けた得点をマークし、3年連続の2冠達成に大きく貢献したのも自信につながったことだろう。でもきっとそれ以上に大事な何かを見つけたはずだ。大きな壁を乗り越えて、選手としても、人としても、大きく成長することができたシーズンだったのではないだろうか。

2/2ページ

著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント