合併した高知は脅威となったのか? FC今治、頂上決戦を2−1で制す
野球室内練習場で最終調整する高知
高知の2チームが合併して誕生した高知ユナイテッドSC。エンブレムにはカツオが描かれている 【宇都宮徹壱】
5月15日に行われる四国リーグの頂上決戦、FC今治とのアウェー戦を前日に控えて、高知ユナイテッドSCは朝の8時30分から90分のトレーニングを行うことになっていた。ただし練習会場は、陸上競技場でも球技場でもなく「春野ドーム」。はて、聞いたこともない名前である。案内所で確認すると「ああ、室内練習場のことですね。ここからすぐ近くです」とのこと。急勾配の階段を慎重に下りながら向かった先は、なんと野球の室内練習場であった。グラウンドは土。ゴールもなければ、タッチラインもない。そんな環境の中、選手たちは投球練習用のネットを2つ並べて、それをゴールに見立てながらセットプレーの練習を繰り返していた。
「いつも土の練習場というわけではないですよ(笑)。週2、3回は春野の球技場をはじめ、天然芝や人工芝で練習していますから。ただし『芝』といってもいろいろで、野球場の外野の芝で練習することもあります(苦笑)。野球王国・高知にサッカーの施設が少ないのは仕方がない部分もありますが、クラブとしてJFLやJリーグを本気で目指すのであれば、やはりゴールがちゃんとある芝生の練習場を確保してほしいですね」
そう語るのは、合併前のアイゴッソ高知時代からチームを率いる西村昭宏監督、57歳。80年代にヤンマーディーゼルサッカー部と日本代表で活躍し、指導者に転じてからはU−20日本代表、セレッソ大阪、京都パープルサンガ(現京都サンガF.C.)の監督を歴任。10年から13年までは、JFAの育成担当技術委員長を務めた(この時、U−17日本代表を指揮していたのが、現FC今治監督の吉武博文氏である)。「もう一度、おもろいチャレンジをしたい」という強い思いから、2年前に高知にやってきた西村氏。しかし当地のサッカー環境、そして四国リーグの厳しさは、経験豊かな指揮官の想像をはるかに上回るものであった。
元Jリーガーが語る、アイゴッソとトラスターの合併劇
共にJ1でのプレー経験のある元トラスターの犬塚友輔(左)と元アイゴッソの横竹翔 【宇都宮徹壱】
果たして合併後の高知は、どんなチームに生まれ変わったのであろうか。それを確認するべく、天王山を前に高知を取材することを思い立った次第。クラブの広報スタッフに「今治の連載をしていますが、スパイ活動をするつもりはありません」と電話でお伝えしたところ、笑いながら快く承諾してくれた。
今季の高知のメンバーは25名。内訳はアイゴッソから12名、トラスターから5名、新加入(大卒、JFLクラブ、地域リーグ、海外のクラブなど)から8名という混成チームとなっている。昨シーズン、今治と最後まで優勝争いを演じたトラスターからの選手が少ないのは、「アマチュアの身分で今後も四国リーグでのプレーを続けたい」という選手が多くいたからだ。ジュビロ磐田、ヴァンフォーレ甲府、サガン鳥栖などでプレーし、昨シーズンにトラスターに加入した犬塚友輔は、当時のチーム内の雰囲気をこう語る。
「僕自身は特に不安は感じなかったけれど、チームメートは合併後も仕事とサッカーの両立ができるのか心配していたみたいですね。結局、トラスターからは5人。そのうちレギュラークラスは2人くらいですけれど、特にやりにくさを感じることはないです。監督が求めていることも、サッカーをやっている人間には当たり前なことばかりなので」
アイゴッソ側から来た選手にも話を聞いてみよう、サンフレッチェ広島のジュニアからトップチームまで上り詰め、その後ガイナーレ鳥取を経て昨シーズンにアイゴッソに加入したキャプテンの横竹翔は、合併した新チームのポテンシャルに自信をのぞかせる。
「自分は去年から、2チームが合併すれば絶対に強くなると思っていました。監督も同じ西村さんなので違和感なくプレーできています。今治ですか? 1人1人は技術があるし、パス回しをやられるとめっちゃ走らされてしんどくなることもあります。でも、決められたことをやっているという印象なので、特に怖さは感じないですね。ウチはチャレンジャーの立場ですが、明日はしっかり結果を出したいと思います」