ほろ苦きホーム開幕戦とかすかな光明 新体制で新たなシーズンに臨むFC今治

宇都宮徹壱

7カ月ぶりのホームゲーム取材

快晴にめぐまれたFC今治のホーム開幕戦。この日の観客数は1450人 【宇都宮徹壱】

 FC今治がホームゲームで使用する、今治市桜井海浜ふれあい広場サッカー場を最後に訪れたのは、昨年9月20日の高知Uトラスターとの首位決戦以来のこと(結果は5−1で今治の勝利)。早いものであれから7カ月が経過した。昨季、もし今治がJFLに昇格していれば、おそらくここを訪れることはなかっただろう。ピッチは人工芝でスタンドもない。JFLの試合を開催するのであれば、どこか別の会場を探す必要があったからだ(余談ながら関東リーグからJFLに昇格したブリオベッカ浦安も、それまで使用していた浦安市運動公園陸上競技場が人工芝であったため、今季は遠く離れた柏の葉公園総合競技場をメーンにホームゲームを開催している)。

 週末の天気予報は雨マークだったが、ホーム開幕戦が行われた4月17日は快晴。風はやや強いものの、日中の気温が20度を超えて汗ばむような陽気となった。この日の観客数は1450人。昨年のトラスター戦で記録した2210人から大きく下回ったものの、それでも「そこそこの入り」と言ってよいだろう。試合前の賑やかなMCとBGM、そして前座のダンスパフォーマンス。何もかもが去年と同じ光景だ。ただし今治のベンチに視線を移すと、昨シーズンとの明らかな変化を感じることができる。

 まず、選手の顔ぶれが大きく変わった。昨年の所属選手29人のうち、今季も継続してプレーしているのはわずかに12人。新たに17人が加入した。監督も木村孝洋氏から、昨年までメソッド事業本部だった吉武博文氏に変わった。そして何より、去年はスーツ姿で観戦していた岡田武史オーナーが、今年はジャージ姿で選手に直接指導している姿が印象的だった。

 新たに創設したCMO(チーフメソッドオフィサー)というポストを兼任し、久々に現場の格好でベンチに座る岡田オーナー。昨年と心持ちに変化があったのかと尋ねると「どうだろう。心持ちはそれほど変わらないけれど、去年はじっとしていないといけなかったからね。でも、今年はいろいろ言えるので、今年のほうが楽かな(笑)」との答えが返ってきた。昨年まで、木村前監督を介して選手にメソッドを伝えていた吉武氏が直接指揮を執り、その吉武新監督を岡田オーナー兼CMOがサポートする。この日のホーム開幕戦は、新体制となった今治を大々的にアピールする場でもあった。

僅差で辛勝するも課題が残った試合

後半31分、長島のゴールでようやく今治が先制。しかし追加点はなし 【宇都宮徹壱】

 そんな今治と対戦するのは、開幕から2連敗して8チーム中6位に沈む、llmas高知FC(以下、リャーマス)。練習の様子を見ていたが、ちょっとアスリートには見えない体型の選手が数名いるのが、いかにも「随時部員募集中」(HPより)のチームらしい。一方でリャーマスは「将来のJ3昇格を目指して、活動しております」(同)としており、単なる同好クラブというわけでもなさそうだ。昨シーズンのホームゲームでは、6−0で今治がリャーマスを圧倒。今季の今治は中村クラブに5−0、FC徳島セレステに8−0とアウェーでの大量得点が続いていただけに、多くの観客は今治の大差での勝利を期待していた。

 ところが試合が始まってみると、次第に雲行きが怪しくなってくる。前半の今治は、ほとんどチャンスらしいチャンスを作れず、じりじりと時間ばかりが過ぎていく。この日のスタメンのうち、今季加入の選手は7人。吉武監督は「去年の選手よりも、質は上がっている」と語っていたが、質の向上が内容に結びついていないのは(少なくとも前半に関しては)明らかであった。相手の身体を張ったディフェンスをなかなか崩すことができず、ボールが切れるたびに選手はベンチを見ている。ミスが多かったのも問題だが、それ以上に自分たちの発想で事態を打開しようという姿勢が見えてこないことが気になった。

 さすがにこのままではまずいと思ったのだろう。今治はハーフタイムで高橋康平に代えて長島滉大を、そして後半24分には桑島昂平を下げて佐保昂兵衛をそれぞれ投入。「右サイドに比べて、左サイドの攻撃が機能していなかった。相手の目を散らすためにもバリエーションのある攻撃を」というのが吉武監督の意図である。そのプランは見事に的中。「自分の持ち味はドリブル」という長島が左サイドの攻撃を活性化させ、リャーマスの守備の意識が分散したところで、佐保が個人技で右サイドを崩してクロスを供給。これを長島がワンタッチで合わせて、後半30分にようやく今治が先制した。

 しかし、今治は追加点を奪うどころか、この1点を守り切るのに精いっぱい。ゲーム終盤には、気力を振り絞ったリャーマスの反撃を受けるも、これを何とかしのぎ切って1−0で逃げ切ることに成功した。それでも、選手たちの表情に笑顔はほとんど見られない。試合後の囲み取材でも、聞こえてくるのは反省の弁ばかり。「もし最後の場面で相手に速い選手がいたら、1−1の勝ち点1という可能性もあった」と吉武監督が語れば、岡田オーナーも「われわれも含めて、楽に勝てるような空気があったので、良い薬になった。まだまだ圧倒できる力はないということが、あらためて分かった」と渋い顔。実はこの日の夕方、岡田オーナーへの取材ができると聞いていたのだが、急きょ取りやめとなり「反省ミーティング」が行われることとなった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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