合併した高知は脅威となったのか? FC今治、頂上決戦を2−1で制す

宇都宮徹壱

高知に先制されるも冷静に対応した今治

開始早々に高知に先制された今治だったが、後半13分に桑島のゴールで逆転に成功 【宇都宮徹壱】

 試合当日の15日は、高知の応援バスに同乗させていただき、試合会場の桜井海浜ふれあい広場サッカー場を目指すことになった。高知は第2節の多度津クラブ戦で、痛恨のドロー(1−1)を喫している。2強時代となった今季は、昨シーズン以上に取りこぼしが許されない。この今治との頂上対決を落とすと、勝ち点差は5に広がり、5月の時点で四国リーグ優勝は極めて厳しいものとなってしまう。さぞやサポーターもピリピリムードかと思ったが、そこはやはり地域リーグ。車中では高知の名物サポーターによる「注目選手紹介」や応援コールの練習が賑々しく行われ、車中の雰囲気は終始なごやかであった。キックオフ90分前に試合会場に到着。高知の関係者にお礼を述べて、今治モードに気持ちを切り替えた。

 キックオフ1時間前、配布されたメンバー表を確認する。今治については、前節のアルヴェリオ高松戦とまったく同じメンバーであり、特にサプライズはなし。おそらく現時点では、このメンバーがベストなのだろう。一方の高知は、B級ライセンス講座がある犬塚がベンチ外というのは聞いていたが(西村監督は「本人の判断に委ねた」と説明)、キャプテンで守りのかなめである横竹、そして昨シーズンの四国リーグ得点王の金橋淳もベンチスタートというのは少々驚いた。2人ともコンディションが万全でないのか、それとも後半勝負というゲームプランなのか。

 13時キックオフの試合は、序盤から意外な展開を見せた。前半5分、高知はセットプレーのチャンスから、相手守備陣が弾いたルーズボールに塚本諒が思い切ったミドルシュートを放ち、そのままゴールネットに突き刺す。初シュートが先制ゴールとなり、がぜん勢いを増す高知。しかし、彼らがリードを保つことができたのは、わずか16分間であった。前半21分、今治は右サイドから桑島良汰が攻め上がってクロスを供給。これに逆サイドに走り込んだ小野田将人が、ニアサイドを抜くシュートを決めて同点に追いつく。「横に岡山(和輝)がついていたので、そこに出そうかと思ったんですけれど、相手に読まれていたのと、GKのニアが空いていたので、とっさにシュートだと判断しました」とは決めた本人の弁。前半は1−1で終了する。

 前半の半ばからパスが回り始めた今治は、エンドが替わった後半もポゼッションでの優位性を示しながら逆転のチャンスをうかがう。その瞬間が訪れたのは後半13分。上村岬のスルーパスを受けた桑島が、右サイドから狙いすましたようなグラウンダー気味のシュートを放つ。前傾姿勢をとっていた高知GK溝ノ上一志は逆を突かれ、ボールはそのままゴール左隅に決まって、ついに今治が勝ち越しに成功する。

 対する高知は、形勢をばん回するべく矢継ぎ早にカードを切るが、後半21分に出場した金橋も、31分に起用された横竹も、いずれもベストコンディションから程遠い状態であった。1点リードの今治も、後半38分にGK岩脇力哉が、そして45分にMFの岡山が、相次いで負傷交代(岩脇はその後、救急車で搬送された)。それでもピッチ場の選手たちは落ち着きを失うことはなかった。最後まで要所をしっかり締めて、2−1のままタイムアップ。今治が四国リーグ前期の天王山を見事に制した。

四国リーグの「その先」を見据える吉武監督

高知との直接対決を制した今治の吉武博文監督。しかし「いいゲームではなかった」とこの表情 【宇都宮徹壱】

 終わってみれば、今治の完勝に近いゲームであった。この日の高知は、ディフェンスラインを5枚、そして攻撃時に前線を3枚にして、相手のボールをアグレッシブに奪いに来る戦術を採用。最初は面食らっていた今治であったが、セットプレーから先制されてもまったく動じることなく、冷静にゲームをコントロールしながら逆転に成功したのは見事であった。しかし吉武監督は、今日の試合内容には決して満足してはいない様子。

「(先制されたのは)リバウンドメンタリティーという点では良かった。あそこで落ち着いて、1−1にして2点目を取りにいったのは評価できる。しかしそのあと、優位に立ちながら自分たちでペースをつかめない。一言でいえば相手が見えていない。105メートル、68メートル(サッカーフィールドのサイズ)、90分というのは全部守れないし、全部攻めることもできない。けれども、攻めるべき場所がたくさんあったのに、相手が守っている場所を攻めていた」

 目前の結果に一喜一憂することなく、むしろ「われわれは四国リーグではなく、その先の地域決勝を見ている」とする吉武監督。高知との勝ち点が5に広がったことについては「リーグ戦はまだ何が起こるか分からないので気にしていない」と語っていたが、少なくとも昨シーズンのように終盤までライバルとデッドヒートを繰り広げる可能性はほぼなくなった。今後は地域決勝に向けて、じっくりとチームの完成度を高めていくフェイズに入っていくことだろう。

 最後に、今治にとって「合併した高知は脅威となったのか」という命題について考えてみたい。「対今治」と「高知にJクラブを」という思いから実現した今回の合併劇であったが、今治にしてみれば「ライバルが絞られたほうが戦いやすい」というのが本音だったと思う。加えて、高知にとって致命的だったのが、具体的な合併話は昨年8月から始まったものの、年末までもつれ込んでしまっことだ。そのため、チーム編成が後ろ倒しになってしまい、「想定していた何人かの選手が加入できない」(西村監督)事態を招くことになってしまった。「2位と3位のチームが一緒になれば優勝できる」ほど、サッカーという競技は単純なものではない。そのことを痛感させられた、今回の頂上決戦であった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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