FC今治、百年構想クラブ承認の舞台裏 岡田武史のビジョンを共に歩むデロイト

宇都宮徹壱

Jリーグ百年構想クラブになるということ

FC今治経営支援チームPJのDTCマネジャー河内智紀氏(右)とコンサルタントの中島啓太氏 【宇都宮徹壱】

 大勢の地元メディアが注目する中、携帯電話の着信音が鳴る。発信元はJリーグだ。「こちらこそ、よろしくお願いします! 本当にありがとうございます!」という受け答えをする様子をおさえようとフラッシュがたかれる──。サッカーファンにはおなじみのセレモニーだが、これはJリーグ加入が決まった瞬間ではない。今年の2月23日、Jリーグ百年構想クラブが発表された時のFC今治の事務所内の様子。ちなみに電話を受けたのは、同クラブの取締役でクラブ事業本部長の矢野将文氏である。

 百年構想クラブとは、将来的なJリーグ入りを目指すJFL以下のカテゴリーに所属するクラブに対し、規約に基づいてJリーグが認定したクラブのことである。今回、認定されたFC今治と東京武蔵野シティFCは、百年構想クラブの8番目と9番目。地域リーグのカテゴリーで認定を受けたのは、FC今治が6番目となる。かつては「Jリーグ準加盟クラブ」と呼ばれていた百年構想クラブだが、最近ではJリーグ入りが決まったかのようなメディアの取り上げられ方となっているようだ。少しばかり驚くと同時に、この百年構想クラブの意義と重要性について、当日集まったメディアがどれだけ認識しているかについても気になった。

「百年構想クラブ自体、まだまだメディアの皆さんもご存じでないことが多いのは事実です。この会見では、百年構想クラブに認定されるということが何を意味し、FC今治が目指す姿の実現になぜ必要なのか、を分かりやすく説明することを重視しました。まずはメディアの方々にご理解いただき、それを市民の皆さんに伝えていただければと思っています」

 そう語るのは、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社(DTC)のマネージャー、河内智紀氏である。当連載でもたびたび言及しているとおり、DTCは今治のトップパートナーであり、ユニホームの胸にも「Deloitte.」の文字がしっかり入っている。とはいえ、このグローバルなコンサルティング企業が四国リーグ所属の1チームをサポートする理由については(いくら岡田武史オーナーが同社の特任上級顧問となっているとはいえ)、その不釣り合いな関係性がずっと気になっていた。ところが今回の百年構想クラブ承認に関しては、DTCがかなりの部分で関与している。その中心メンバーだったのが、同社で10年目の河内氏である。今回は同氏の証言を引き出しながら、今治の百年構想クラブ承認に至るまでの舞台裏を探ってみることにしたい。

プロのコンサルタントから見たFC今治という組織

「ご存じのとおり、弊社は今治の胸スポンサーをさせていただいておりますが、岡田オーナーが掲げられているビジョンは非常に壮大なものですので、そのビジョンの実現に向けて共に歩む立場として、コンサルティングファームとしてのスキルやナレッジ、ネットワークを活用して、何かご支援できないかというのがそもそもの経緯でした」

 河内氏によれば、DTCによるFC今治の経営基盤整備支援プロジェクトがスタートしたのは昨年7月27日。その前日の26日、今治は高知で開催されていた全社(全国社会人サッカー選手権大会)予選で高知Uトラスターに3−1で勝利し、全社出場権を獲得したばかりのタイミングである。補足すると、5月17日の四国リーグで今治はトラスターとのアウェー戦に1−2で敗れており、次の直接対決(9月20日)までは、ずっと首位のトラスターを追いかける立場であった。

 仮に四国リーグで優勝を逃してしまうと、今治は全社でベスト4以上の成績を収めなければ、「JFL昇格の登竜門」とされる地域決勝(全国地域リーグ決勝大会)に出場できない。つまりこの時点ではまだ、「JFL昇格」というミッションの達成への見通しは決して明るいものではなかったのである。当然、現場は目前の試合に集中せざるを得なくなる。だがプロのコンサルは、もっと大局的な視点で状況を見つめていた。

「(百年構想クラブの)申請の締め切りはJ3加盟希望年度の前々年の11月末日になります。昨年もし、JFLへの昇格を決めていたとして、翌年(16年)もJFLからJ3に昇格できる順位に位置していた場合、このタイミングで認定を得ることが必須になる。そういったお話をしたところ、岡田オーナーは制度そのものをご存じなかったようで、『よし頼む!』となりました(苦笑)」

 さもありなん、である。河内氏の言によれば、今治という組織は「トップチームや育成・普及などの現場側のスタッフは充実しているが、フロント側のスタッフは矢野さん以下、数名のメンバーで、何とか日々の業務に対処している状態」であったという。そのフロント業務についても、岡田オーナーいわく「最初は役員会をやるにしても、まるでママゴトみたいでした(笑)」。「10年以内にJ1で常時優勝争いをするチームに」とぶち上げたものの、具体的な手続きについては、ほとんど対応できていなかったというのが実情である。

「このため(プロジェクトが始まって)最初の数週間は、まずは現状を把握することに努めました。それぞれの部署の具体的な業務内容を拝見し、ヒアリングした上で、われわれがご支援すべきことを洗い出す作業からスタートしました」

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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