高い理想と現実のはざまで揺れるFC東京 求められる覚悟とビジョンの共有

後藤勝

全北現代戦でカオス状態に陥る

ACLの全北現代戦ではロングボールを蹴るだけのカオス状態に陥った 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 守備の弱さが露呈したあと、カウンターを警戒して守備を重視するようになったFC東京は、それが一度落ち着いたところで、サイドからの攻撃と、そこに展開するまでのビルドアップに取り組み、得点力不足解消も図る。

 ところが、これで一件落着とはいかなかった。

 症状が明確になったのは4月6日、敵地のACL第4戦で江蘇蘇寧(中国)を下し、グループステージ突破に王手をかけたあとだった。柏レイソルと川崎フロンターレに連敗し、迎えた20日のACL第5戦。攻撃に出てくるはずだった全北現代モータース(韓国)は予想を覆し、守備を固めてきた。中央も堅いが、サイドも堅い。得点力不足を補うべく具体的な攻撃手法を模索していくなかで、中央を空けさせるためにサイドに展開して相手を引き付けるというやり方に着手していたFC東京は、サイドハーフとサイドバックをマンマークに近い形で守られ、ボールの動きを寸断された。交替カードを切り尽くしたあとの終盤はただやみくもにロングボールを蹴るだけになってしまい、“カオス”(混沌)と言っていい状態に陥った。

 4月24日のJ1第8節、対ヴァンフォーレ甲府戦では前半を最悪の内容で推移しながら何とか1−1の引き分けに持ち込んだが、第9節でアビスパ福岡に完封負けを喫すると危機感は最高潮に達した。

 なぜこうなったのか。

 アクション増を志向すると、それまで身についていたリアクションの割合が減るだけでなく質も低下する。攻撃に意識を傾けると、針がそちらに振れ過ぎて、守備がおろそかになる。当然、守備やリアクションをきちんとしなければと、針を戻すことになるが、そうすると身につきかけていた攻撃の意識が薄れ、アクションの割合が減る。この過程でいろいろな要素がすり減り、やがて根本も失われ、すべてが半端になった。

 連敗で自信を失い、連戦で消耗すれば、ハードワークもできなくなる。対甲府戦の、失点後の不安に満ちたプレーには、萎縮という言葉がぴったりだった。

 福岡に敗れたあと、選手同士のミーティングを経て「ミスを全員でカバーする」「攻守の切り換えをはやくする」基本が再確認された。これが復活に大きく作用した。

「選手がよりコミュニケーションをとってくれるようになった」

 ベトナム遠征を振り返っての、城福監督のひとことだ。

 1月31日のニューイヤーカップ最終戦で同大会の優勝を決めたとき、城福監督は「自分の特長よりもチームとしてやるサッカーを優先してしまう、というのはよくあること」と言っていた。選手が真面目であればあるほど、言われたことを吸収しようとして考え込んでしまう。FC東京の選手は吸収し過ぎていた。遅きに失した感はあるが、選手が自主的にミーティングを行ったことは、反転材料のひとつになった。

FC東京に地力を養う覚悟があるか

“城福理論”を満たすサッカーを完成させるには、時間をかける覚悟とビジョンの共有が必要だ 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 城福監督の著書『Jリーグ サッカー監督』(カンゼン刊)160ページには次の記述がある。

「(前略。システムを)変えるかどうか検討する前に、まず、基本的な観点から守備が破たんしている原因を探るべきです。(中略)こうした基本が押さえられていなければ、システムを変えても何の解決にもなりません」

 5月4日、積極的に前に出ていく意識とハードワークを取り戻し、4−4−2のまま敵地でビン・ズオンを撃破。ACL決勝トーナメント進出を決めた。ここで「基本を押さえた」FC東京は帰国後、システムの本格的な修正に着手した。高橋をアンカーに置く4−1−4−1を採用、バイタルエリアを埋めて守備の不安を解消しつつ、これまで積み上げてきた成果も見せ、8日には湘南ベルマーレに1−0で勝った。

 湘南とあわせて両チームの選手が前後30メートル以内に収まるコンパクトさや、高い位置からプレッシャーをかける意識に、城福監督が目指すものがうかがえた。前半37分、11本のパスをつないでから、高い位置取りをしていた左サイドバック小川のクロスでチャンスをつくった場面などは、湘南にはない要素だった。いまはただ垣間見せているにすぎないが、こういう時間帯が試合全体に及べば、国内でもトップクラスの支配力を持つチームになれるだろう。

 今回は選手と監督の結束で危機を脱しつつあるものの、クラブとファンとの間でビジョンを共有できていない点は不安だ。今後、敗戦に過敏になった外野がチームに重圧をかけ過ぎ、成長を妨げ、危機を再発させるリスクになりかねない。

“城福理論”を満たすサッカーを完成させるには、最長で5年の月日を要するかもしれない。なぜ5年か。浦和レッズと川崎を見ていれば分かる。ミハイロ・ペトロヴィッチ監督が浦和で指揮を執り始めてから今年で5年目。風間八宏監督も川崎で5年目だ。相手に奪い返されないだけのポゼッションを構築するのに長い時間をかけ、仕上げに守備をたたき込みつつある。そうしておいてようやく、浦和と川崎は、J1で首位を争う競争力を身につけた。主体的にボールを動かし、相手陣内に押し込んで勝つ地力を養うとは、そういうことなのだ。その覚悟があるのかどうか。

 ファンは降格を我慢できないし、クラブも2年以内にタイトルを取らなければ監督を交替させるという方針を掲げている。そしてほかならぬ城福監督自身が「THIS GAME」の精神を口にして、眼前の1勝に強くこだわっている。勝ちたい気持ちはみな同じだが、思い描く目標とそこへのたどり着き方がバラバラで、一体感がない。論戦も、最終目標から逆算したチームづくりをおこない、その進捗を確認しながらの批評の応酬でなければ、システム論から感情論から、バラバラな論拠からの“クソ”の投げ合いになる。それは不毛だ。

「強く、愛されるチームをめざして」

 FC東京にかかわるすべての人々は、このスローガンだけでも共有するべきではないか。ここを起点に、将来どういうサッカーに変化していくべきなのか、いまの時点では何位を目指すべきなのかを考えなければ、無数に目標設定が分裂していくだけだ。

 FCバルセロナは117周年。FC東京はJリーグ加盟から17周年。この差は大きい。ひよっこの謙虚さを持たないと、先が思いやられる。

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著者プロフィール

サッカーを中心に取材執筆を継続するフリーライター。FC東京を対象とするWebマガジン「青赤20倍!トーキョーたっぷり蹴球マガジン」 (http://www.targma.jp/wasshoi/)を随時更新。「サッカー入門ちゃんねる」(https://m.youtube.com/channel/UCU_vvltc9pqyllPDXtITL6w)を開設 。著書に小説『エンダーズ・デッドリードライヴ 東京蹴球旅団2029』(カンゼン刊 http://www.kanzen.jp/book/b181705.html)がある。【Twitter】@TokyoWasshoi

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