偉大な卓球人・平野早矢香の引退 福原、石川らに受け継がれたDNA

月刊『卓球王国』

笑顔と涙でコートを去る

9日、最後の試合を終えた平野早矢香。会場からは惜しみない拍手が注がれた 【写真は共同】

 4月9日、佐賀で開催された日本卓球リーグ・ビッグトーナメントで、ロンドン五輪団体銀メダリスト・平野早矢香(ミキハウス)が現役生活に別れを告げた。そのラストゲームを目に焼き付けようと、多くのファンが詰めかけ、会場は立ち見が出るほどの盛況ぶり。2回戦で敗れたものの、大勢の観客からの惜別とねぎらいの拍手の中、笑顔と涙でコートを去った。

 引退を惜しんだのはファンだけではない。平野に勝利した藤井優子(愛媛銀行)は試合後の握手の際に号泣。藤井は四天王寺中学・高校時代、平野が所属するミキハウスの練習場でともに腕を磨いた。選手として勝ちにいくのは当然。しかし、その勝利は平野にとって引退を意味する。対戦が決まってからの時間は相当に苦しかったはずである。号泣する藤井に声をかけた平野の笑顔には、勝負に誰よりもこだわってきた彼女だからこその、感謝が感じられた。

 社会人1年目、プロ選手としてスタートを切って間もない頃のインタビューで平野はこんなことを語っている。

「みんなに尊敬される選手になりたいけど、それはすごく難しい。勝負の世界だから、好かれて、尊敬されているだけじゃ勝てない」

 そんな考えとは逆に、平野早矢香という選手が、実力、人間性を兼ね備えた「尊敬すべきチャンピオン」であったことは、引退試合を見届けたすべての人からの鳴り止まない拍手と、引退を惜しむ会場の雰囲気が物語っていた。

人を引き込む「平野ワールド」

 そうした人間性を築いたのは、卓球、そして勝負に対する真摯(しんし)な姿勢であろう。

 24時間使用可能なミキハウスの練習場の上階に住み込み、朝から日付が変わるまで練習に打ち込むのはよくあることで、時には朝日が昇り出すような時間までボールを追い続けることもあったという。また、鍛えたのは技術だけではない。「雀鬼」の異名を持つ麻雀界の巨匠・桜井章一にメンタルの在り方について教示を受けるなど、勝つための術を貪欲に欲し、求道者のように卓球を追求し続けた。

 はっきり言って、ずば抜けたセンスを持つタイプでもなければ、パワーや派手なプレーで相手を圧倒するようなタイプでもない。それでも豊富な練習量に裏打ちされたラリーでの安定感、卓越した戦術と、人並み外れた屈強なメンタルを武器にいくつもの勝利を重ねてきた。ダイナミックでスピーディーなラリーの応酬は卓球の魅力であるが、試合の中での戦術や駆け引きなど、卓球の奥深さを教えてくれる選手でもあった。

 そんな平野の試合には、人を引き込む独特の世界がある。試合中の平野が放つ雰囲気や気迫、集中力が生み出す、神通力とでも言うべき「平野ワールド」に、観客も、対戦相手も、いつの間にか引きずり込まれ、最後にはドラマチックな勝利をあげる。「平野ワールド」は多くの人を魅了し、そして勇気や感動を与えてきた。

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