『週プロ』佐藤編集長に聞く2015年「サービス精神ある団体の人気が高まった」

スポーツナビ

『ネット社会』になっても根強い紙媒体のファン

「女子プロレスだけを見たい」というファンのためには、スピンオフ的な雑誌も販売している 【前島康人】

――ここからは『週刊プロレス』としての2015年を伺いたいと思います。昨年の販売部数はどうでしたか?

 販売部数としては横ばいですね。そういう意味では、“出版業界不況”と言われる中で、おかげさまで継続していかれる感じです。

 それこそプロレスは各スポーツ紙でも小さな紙面でしか載らない状況です。もちろん、東京スポーツさんは別ですが。それにもかかわらず、プロレスの週刊誌を出し続けられている状況というのは、プロレスのファンの方々に支えられているからだと思います。

――やはり昔からの根強いファンがいるということですね。

 そういうことでしょうね。ですから、プロレスが必要以上に世間的な価値観に寄ってしまいすぎると、ジャンル本来の独自性やアイデンティティーが失われてしまうので、そこはこれからの課題ですね。

――『週刊プロレス』のほかにも、『新日本プロレス Bi-monthly』や『女子プロレス エロカワ主義』など、特化した別冊も販売されいます。

 同じプロレスでも、価値観といいますか、「女子プロレスだけを見たい」とか、「海外のプロレスだけを見たい」といった方々に向けて、プロレスの中における一つのテーマに特化した別冊や増刊も作っています。多様な価値観の中で、ひとつの価値観に絞り、一冊に具現化する本が、女子プロレスの『エロカワ主義』や『レッスルマニア』の別冊、それからマスク本やドラゴンゲート大百科なども出しています。

――これらの別冊は本誌と比べるとどうですか?

 もちろん本誌の方が断然(発行部数は)多いですよ。その中で、定期刊行ではないのですが、プロレス界の流れも見ながらスピンオフ的な企画本を出しています。
 女子プロレスにも海外プロレス、マスクにも一定のファンの方々がいるので、それぞれ割と継続して出せている状況ですね。

――また雑誌とは別にモバイルサイト『週刊プロレスmobile』もありますが、そちらはどんな状況でしょうか?

 こちらも安定していますね。立ち上げたのが2001年。いわゆる「週刊ではなく“瞬間プロレス”への挑戦」というキャッチコピーでモバイルサイトを立ち上げました。立ち上げ当初は、雑誌の読者がそちらに流れてしまうのではないかという懸念もなくはなかったのですが、ちゃんと共存できて、ページ数が限られている本誌で取り上げきれなかった団体情報も扱うことで、業界内でも一定の存在意義を認めていただけるようになったと思っています。

――雑誌だとページ数が限られてしまいますが、モバイルサイトならどんな情報も出せるという点が良かったと。

 そうですね。あとは速報的な形でやることで、週プロとの立ち位置は差別化することができたと思います。いわゆる『ネット社会』になって、雑誌の存続が危ぶまれていると言われていますが、プロレスに関しては、やはり紙媒体は意外と根強いなと感じています。

スーパーJカップは「第2、第3のハヤブサ」輩出のチャンス

約7年ぶりとなる「SUPER J-CUP 2016」が8月21日に開催。この大会から新しいスターの誕生にも期待 【横田修平】

――今後のプロレス界の展望について伺います。2015年から16年上旬は、プロレス界が良い流れで来ているように思います。この先、プロレス業界がどのように変わっていくと思われますか?

 今年に入り、新日本プロレスが第2ステージに突入しました。中邑(真輔)選手が抜け、そこでまた生まれ変わってもらうためには、やはり中邑選手に取って替わるようなカリスマスターの台頭が必要ですし、新しい人材にも頑張ってほしいと思います。
 もうひとつは、新日本プロレスと拮抗するだけの団体に出てきてほしいですね。

 今はプロレス界が政治の世界のように「一強時代」になっていますが、新日本プロレスが与党で、そことしのぎを削るような団体、あるいは団体同士がまとまるような流れを作ってくれればプロレスを知らない層にも分かりやすい業界になると思います。

――やはり、80年代、90年代というのは猪木・新日本と馬場・全日本という2つの団体がしのぎを削っていたことが、大きなムーブメントを作り出した要因だった。

 そういう意味では、むしろ今のほうが、団体の枠を超えたオールスター戦のようなイベントをやれるチャンスは多いのかなと思っています。

 団体の看板であるヘビー級同士だと、各団体の面子やプライド、政治的事情が複雑に絡むので難しいと思うのですが、ジュニアヘビー級の選手や若手なら、業界を挙げたビッグイベントを実現できるのではないかと思います。今まではひとつの団体の中でしか評価されなかった有望選手たちが、業界全体で脚光を浴びるためのステップになるような大舞台を作り上げてほしい。これは予測というよりも、願望ですよね。

 そういう意味では、今年6年ぶりに開催される「スーパーJカップ2016」(8月21日、東京・有明コロシアム)には、6団体(新日本、ノア、KAIENTAI、ZERO1、ドラゴンゲート、琉球ドラゴン)とユニット(鈴木軍)の参加も発表(このほかに海外のROHとCMLLも参加)されていますが、なんといってもそれまで無名だったハヤブサさんが飛躍して大会ですから、そこから第2、第3のハヤブサを輩出できるような、舞台にしてほしいなと思っています。

初めて雑誌を手に取った人にも「分かりやすく」

IWGP、GHC、三冠など、伝統のタイトルを表紙から外さないということは押さえている 【横田修平】

――プロレス界が新しい時代を迎えている中で、『週刊プロレス』を編集する上で守りたいポリシーのようなものはありますか?

「分かりやすく」ということですね。今は昔に比べて、その団体のファンじゃないとなかなか理解できない、読みづらいリングネーム、ユニット名、技名やリング上の流れがあります。そういうものを初めて週プロを読んだ読者にも分かるように、誌面で表現していければと思っています。

 週プロには基本的に、主要団体の試合リポートが載っているわけです。当然、好きな団体の記事は読むけど、興味のない団体のページは飛ばす。そうではなく、特定の団体のファン以外の読者にも興味を抱いていただくためにも、分かりやすくしないといけないなと思っているんです。専門誌だからといって、そんな基本的なことは分かっているよ、知らないほうがおかしいと、言葉の定義をスルーしがちですが、専門誌の驕りでもあるかなと思います。そういう部分をなくして、常に新しい読者を意識して、詳しい読者の方には説明がいらないことでも、噛み砕いて説明していきたいなと思っています。

――つまり理想としては、初めて雑誌を手に取った人でも内容を理解できることだと。

 それが雑誌の質を落とすこととイコールではないと思っていますから。もちろんコアなファンの方にも、インタビュー記事だったり、試合リポートなど、各スタッフの熱のこもった記事で喜んでいただける記事を心掛けています。

――そのバランス感覚が重要になってくるということですね。

『週刊プロレス』としては、創刊30年を超えて、業界にも認知していただいています。そこにはわれわれの先輩方が築き上げてきた部分でもあり、その遺伝子が時代の波に左右されながらも現在のスタッフにも受け継がれていると思います。

 過去にはターザン山本さんが編集長をされていましたが、あれから時代が変わり、今あの手法が通じるかといったらそうではないと思いますし、いろいろ言われながらも、83年からプロレスの週刊誌を継続できた自負はあります。それは守っていかないとと思っています。

 いろいろなところで言っているかもしれませんが、2010年に『週刊プロレス』へ帰ってきた時、過去との最大の違いは、他誌がなくなっており、『週刊プロレス』が唯一の週刊誌になっていたことです。その中で『週刊プロレス』の役割は何なのかと。昔は、「無難なことは悪」という空気が編集部にあり、「他誌と同じ誌面にしてはいけない」と、過激な雑誌作りをしていた時期もありました。

 当然僕もその下でやっていたので、01年から04年までの編集長時代には、山本さんから受けた影響を誌面に展開していました。ですが、一度現場から離れて、2010年に帰ってきた時には、他誌がなくなっていたので、やっぱりまずはオーソドックスに、分かりやすく、目の前に起こった試合や出来事に対しなるべくバイアスをかけず、ストレートに伝えていけたらいいなというのがありました。

 もちろんわれわれが料理する以上は、バイアスがいっさいかからないということはありません。それでも、まずは軸となる三冠ヘビー級選手権、GHCヘビー級選手権、そしてIWGPヘビー級選手権と、そういう歴史があるタイトル戦はなるべく表紙から外さないとか、押さえておかないといけないものは押さえようと思っています。

――しっかりと現状を伝え、大事なことを伝えていくと。

 これだけ団体が多くなり、且つ、各団体の世界観の中でチャンピオンがいるわけですから、初めて見る人はどこを見たらいいか分からないですよね。

 そういう人たちに分かりやすく伝えるために、まずはちょうど団体復興の上向き状態にあった新日本プロレスを中心に誌面を展開してきましたが、それは間違っていなかったと思っています。もちろんなかにはもっとほかの団体にも目を向けてほしいという批判もありますが、まずはひとつの団体に興味を持った新規のファンの方に『週刊プロレス』を買っていただき、そこからほかの団体にも興味を広げてもらい、その団体の会場にも足を運んでもらうようになってほしいと思っています。

(取材・文:尾柴広紀/スポーツナビ)

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