ドラゴンゲート・岡村隆志社長「まずは基礎をガチガチに固める」

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新人には地方の営業などをさせる

ベテランと呼ばれるCIMA(右)らも率先して撤収作業やトレーニングを行っている 【(c)株式会社ドラゴンゲート】

――現在、所属選手の数が30人を超えています。新人選手の育成はどのように行っていますか?

 最近いろいろな方に「どうやっているの?」と聞かれますが、分かりづらいかもしれませんね。例えば、入門してから最初に寮生の時代があります。そこで半年ぐらいしてから練習生に上がり、新人中心の大会の「NEX」があります。そこの第0試合があり、次に第1試合に上がってデビューとなります。そこでやった後に本戦の第0試合があって、第1試合に上がっていく。そういう関門を置いて、自分の団体内で育成しているという状態です。

 ご存知の通り、うちはビッグマッチ以外、ほかの団体から選手を呼ばないので、自分のところで育てるのが基本です。それをやることで、団体への愛着とか、自分たちで作り上げているという意識がすごく強くなると思います。案外、僕が知らないことも多いですよ。僕自身が対戦カードをあまり知らないですから(笑)。

――デビューしてからの選手は、どのように育てていますか?

 うちの場合はデビューした選手を海外へ送るケースが多いです。その前に、一度、大会がどのように成り立っているかを学ばせるために、地方で営業させますね。デビューしたからといって天狗にならないように、どういう仕組みで舞台が成り立っているかを分かって欲しいんで。

 そこの部分は試合後の光景を見てほしいですね。うちのベテランと呼ばれる選手のCIMAや望月(成晃)だって、もちろんリングの撤収を手伝ったり、売店に出たり、控室であぐらをかいている選手は誰一人としていませんから。そういうところを見習ってほしいんですよね。練習量だって、彼らは半端ないですからね。

――それこそリング上だけで試合を見せればいいというわけではないと。

 勘違いしてもらったらいけないですからね。現に外国人にしても、しっかり撤収作業もさせたりしていますよ。

――それこそドラゴンゲートで活躍していた外国人選手は米国などでも活躍していますよね。

 それがうれしいですよね。PAC(現ネヴィル)なんかは、感動的でしたよ。向こうに行く時に、「ボスがノーと言えば、行かない」と言ってくれたんですよ。だから「どんどん行けよ」と言いましたよ。ウーハー(・ネイション、現アポロ・クルーズ)の時もそうだったし。彼らにとっては、(WWEが)一番のアメリカンドリームであり、夢なので、やっぱりそこは叶えてやりたいですよ。

――外国人選手を契約で縛るようなことはしていない?

 ないですよ。逆に次から次へと(新しい選手が)殺到していますから。それこそ、練習生でもやりたいという選手が殺到しています。ただ、うちは少し違うよと。私が空手出身ということもあるので、武道に通じるような礼儀だとか、片づけをちゃんとするとか、そういうのができないとダメだよと。

 そういうこともあり、外国人選手が転戦を終えた後、「ドラゴンゲートはちゃんとした団体だ」と言ってくれた時はうれしかったですね。

――リングの中だけでなく、生活面からトータルで人格を育てているのですね。

 そうですね。

会場を満員にしなければ意味がない

――団体の利益に関してですが、現在はどんなバランスになっていますか?

 利益の8割が興行ですかね。

――チケット収入がベースだと?

 はい。地方でコツコツ積み上げてきたのを大事に育ててきているので、そこは大事にしたいです。もともとの系譜ってあるじゃないですか? 力道山さんから始まって、新日本、全日本に分かれ、さらにそこから分かれていく。みんな、その系譜のルートを持っていたと思いますが、うちは完全に新興団体。初年度は年間で20興行ぐらいだったのが、そこから改革していって、ここまで来たので、地方の興行を大事にしないと絶対ダメかなと。

 いい試合をし、お客さんが来てくれるということを、どこまで真剣に考えるかということです。例えば愛知県体育館でビッグマッチをしますよと。僕としたら満員にならないと意味がないんです。それこそ東京ドームで試合をやりますと言うのは簡単ですけど、満員にしないと意味がないと思うんです。

――なかなか比較はできませんが、90年代や80年代のプロレスを考えたら、集客はまだまだだと?

 プロスポーツと考えたらということですよね? それは全然だと思います。他の団体がどうのこうのというより、自分の団体がまだできていないので、他と比べる必要もないと思っています。
 プロである以上、それで生活ができ、家族も支えられる。それをやってからじゃないと、業界がどうのこうのとか、プロレス業界のためにとか言えないですね。まずは自分のところがどうなっているかを把握し、きちっとやらないと。

5000人の会場を1回よりも、500人の会場を10回

大きな会場での大会よりも、小さな会場を複数回行うことのほうが、ファンへ届きやすいと話す 【横田修平】

――選手の生活を最後までちゃんとサポートすることが大事だと?

 それこそ昨年の巡業数が198大会と、ほぼ200大会じゃないですか? 家族よりも一緒に過ごす時間が長いですから、そこは考えてしまいますよね。

 今、フロントに入っている(アンソニー・W・)森とか八木(隆行)とか、あの辺もみんなそうですから。みんな抵抗なくスライドで即戦力になります。即戦力になるように、現役時代から叩き込んでいますからね。

 若手もベテランも、うちは全員そろってやっています。だから利益が出た場合は、みんなに返します。昨年、一昨年は特別ボーナスも選手スタッフに出しています。みんなが一生懸命やってくれた分を還元する。これはもらう喜びもありますが、出す方も喜びになっていて、相互にありがとうというのが理想的ですからね。

――それこそ、大きな夢をひとつ叶えるというよりも、毎年毎年を確実に成功させていくのが大事だと?

 そこは夢を与える人間がボロボロだったらおかしいですからね。
 選手がそういう夢を与えてくれる。社長としては、夢ではなく、選手のことを考える必要があるということです。

――社長として夢物語を語ることはない?

 何年後かの話を語ったとしても、今がどうなんだとなりますからね。まずは基礎をガッチガチに固める。固めた上で、いつか勝負を懸ける。だから最初にリップサービスをしてもですからね。まずは現実的にですよ。

 僕らが取り扱うのは何万人、何十万人を扱うコンサートとは違います。主となるのは数百人、数千人なので、ちょっとしたことに気付くか気づかないかですね。

――大箱の大会をどうにか開催するというよりも、ファンに向けて良いものを提供していくことが大事だと?

 それに気が付けば、(ファンは)増えていきますよ。それこそ5000人の会場を1回よりも、500人の会場を10回の方がいいんですよ。そういう規模の方が(ファンが試合を)見やすいですし。それが一番伝わりやすいですよね。だから勘違いだけはしたくない。身の丈にあったことをしていきたいと思っています。だから『石橋を叩いても渡りません』と(笑)。プロレスが今、もてはやされている部分はありますが、現状はもっと厳しいと思います。怖いですよね。

(取材・文:尾柴広紀/スポーツナビ)

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